人手不足による退職の引き延ばしは違法|退職できないときの対処法は?
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熊本労働局のプレスリリースによると、令和4年度に熊本県内の総合労働相談コーナーに寄せられた、退職を引き延ばしされているなどの自己都合退職についての相談は1148件でした。
職場の人手不足を理由に、労働者の退職日を会社が引き延ばそうとするケースも珍しくないようです。法的には、正社員など無期雇用労働者は2週間前に会社へ通知すれば退職可能ですが、強引な引き留めに遭った場合はどうすればよいのでしょうか。
本コラムでは、人手不足などを理由に退職を引き留められた場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。
1、無期雇用労働者は、会社へ2週間前に伝えれば退職できる
正社員やパート、アルバイトなど、契約期間を定めていない雇用契約を締結している労働者(=無期雇用労働者)は、法的には2週間前に会社へ通知すれば退職できるものとされています(民法第627条第1項)。その際、退職理由は問われません。
就業規則等において、退職通知の時期を前倒ししている例も見られます(3か月前の退職通知を要求するなど)。
しかし、このような就業規則の定めは労働者の職業選択の自由を過度に制約するものであり、公序良俗に反するものとして無効となる可能性が高いといえるでしょう(民法第90条)。
また、退職しようとする労働者を無理やり引き留めて働かせることは、強制労働の禁止に抵触する可能性があります(労働基準法第5条)。
2週間以上前に通知したにもかかわらず、会社に退職を無理やり引き留められた場合には、それが違法であることを明確に主張しましょう。
2、会社による退職の引き留めが違法となるケース
会社が退職しようとする労働者を引き留める行為が違法となるケースとしては、以下の例が挙げられます。
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(1)退職の意思を明確に示しているのに聞き入れない
労働者が退職の意思を明確に示している場合、それは正式な退職通知であると理解できます。会社に対して退職届などの書面を交付することが望ましいですが、口頭であっても退職の意思表示は有効と解される余地があります。
退職の意思を明確に表示されたにもかかわらず、会社がそれをかたくなに聞き入れない場合は、労働者に精神的損害等を与えるものとして不法行為(民法第709条)に当たる可能性があります。
さらに、度が過ぎた引き留め行為がなされた場合には、強制労働の禁止に抵触して刑事罰の対象になりえます(労働基準法第5条、第117条)。 -
(2)「損害賠償を請求する」などと脅す・嫌がらせをする
本来、退職しようとする労働者に対して、会社は労働者が退職することを理由として損害賠償請求を行うことができません。2週間前通知による退職は、労働者に認められた権利だからです。
しかし実際には、「退職したら損害賠償を請求する」などと言って労働者を脅し、退職をやめさせようとする会社もあります。
このような会社の行為は、労働者に対する不法行為(民法第709条)に当たりえるほか、度が過ぎれば強制労働の禁止(労働基準法第5条、第117条)に抵触して刑事罰の対象になりえます。
また、退職の意思を示していることを理由にパワハラなどの嫌がらせをした場合も、労働者に対する不法行為に当たる可能性があります。
3、会社の引き留めに遭って退職できない場合の対処法
会社のしつこい引き留めに遭ってしまい、スムーズに退職することが難しい場合に行うべき対応は以下のとおりです。
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(1)内容証明郵便等で退職届を送付する
退職の意思表示(通知)は口頭でも認められますが、証拠が残る書面によって会社に退職の旨を通知することが望ましいです。退職の通知日を立証できれば、その日から2週間が経過した時点で退職が成立することを主張できます。
会社が退職届を受け取らない場合は、内容証明郵便によって退職届を会社へ送付しましょう。内容証明郵便を利用すれば、郵便局に退職届の差出人・宛先・差出日・内容を証明してもらえます。
後に会社との間で退職の成否が争われた場合にも、内容証明郵便で退職届を送付していれば、退職の2週間前に退職通知を行ったことを明確に立証できます。
また、内容証明郵便を会社に送付すれば、口頭で退職の意思を伝えていただけの段階に比べて、退職に向けた真剣度が会社に伝わります。会社側の対応が変化すれば、スムーズに退職できる可能性が高まります。 -
(2)次の就職先を探す
次の就職先が決まっていないと、現在の会社を退職することへの決意が鈍りやすいといえるでしょう。
反対に、次の就職先が決まっていれば、転職のスケジュールを考慮して退職すべき時期が明確化されます。その結果、現在の会社から引き留められたとしても、強い気持ちで拒否できるようになります。
時間的な切れ目がないように転職できれば、収入が途絶える心配もなくなります。現在の会社から退職を引き留められている方は、転職活動を積極的に行い、1日も早く次の就職先を見つけましょう。 -
(3)専門家や行政機関などに相談する
強引に退職を引き留める会社への対処に困っている場合は、専門家や行政機関にアドバイスを求めるのがよいでしょう。専門的・実務的な視点から、どのように対処すればスムーズに退職できるのかについてアドバイスを受けることができます。
退職に関する具体的な相談先は、次の項目で紹介します。
4、どうしても退職が難しいときの相談先
会社の引き留めがあまりにもしつこく、自力で退職することがどうしても難しいと感じている方は、以下の窓口へ相談しましょう。各窓口はそれぞれ特徴が異なるので、ご自身の状況に合わせて相談先を使い分けることが大切です。
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(1)労働基準監督署
労働基準監督署は、労働法令の遵守状況などについて事業者を監督する行政機関です。
熊本県内の労働基準監督署は以下のとおりです。- 熊本労働基準監督署
- 八代労働基準監督署
- 玉名労働基準監督署
- 人吉労働基準監督署
- 天草労働基準監督署
- 菊池労働基準監督署
そのほかのエリアにお住まいの方が相談できる労働基準監督署の所在地は、厚生労働省のウェブサイトから検索できます。
参考:「全国労働基準監督署の所在案内」(厚生労働省)
労働基準監督署に設置された「総合労働相談コーナー」では、会社とのトラブルについて幅広く相談できます。退職を強引に引き留められた場合にも、その対処法について一般的なアドバイスを受けられます。
ただし、労働基準監督署はあくまでも行政機関であり、労働者の代理人ではありません。
会社に対して、労働者の主張を代弁してもらうことや、損害賠償請求を代行する機関ではない点に注意が必要です。 -
(2)退職代行業者
会社と直接やり取りをすることなく退職したい場合は、退職代行サービスを利用することも選択肢に挙がるかもしれません。退職代行業者とは、労働者に代わって会社に退職の意思を伝えるサービスを提供する業者です。
ただし、退職代行業者ができるのは、あくまでも会社に対して、労働者の退職意思を代わりに伝えることだけです。退職代行業者があなたの代わりに交渉してしまうと、弁護士法違反となりえます。
そのため有給休暇の消化に関する交渉、未払い残業代請求・パワハラに関する損害賠償請求などの対応については、退職代行業者は会社と交渉することができないため、弁護士に相談するようにしましょう。 -
(3)弁護士
弁護士は、労使トラブル全般の解決をサポートする法律の専門家です。弁護士に相談すれば、スムーズに会社を退職する方法について、状況に応じた具体的なアドバイスを受けられます。
また、実際の退職手続きへの対応についても、弁護士に依頼すれば一任できます。退職代行業者とは異なり、弁護士は有給休暇の取得に関する交渉・未払い残業代請求・パワハラに関する損害賠償請求などにも全面的に対応可能です。
弁護士に依頼すれば、スムーズに会社を退職できる可能性が高まるほか、会社と直接やり取りする必要がなくなるため、精神的な負担も大幅に軽減されます。
退職に関して会社とトラブルになっている方は、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
職場における人手不足などの事情があったとしても、退職しようとする労働者を会社が強引に引き留めることはできません。もし会社の不当な引き留めに遭ったら、弁護士に対応を依頼して、そのほかの労働問題を解決しながらスムーズな退職を目指しましょう。
弁護士は、会社に対する退職意思の伝達に加えて、有給休暇の取得に関する交渉・未払い残業代請求・損害賠償請求などについても一括してご依頼いただけます。ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスには、労働問題についての知見が豊富な弁護士が退職トラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けております。
退職を強引に引き留めてくる会社への対処にお困りの方や、退職に伴って有給休暇の取得や金銭的な請求などを検討している方は、お早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています