未払い残業代請求のリスク|会社との関係悪化を回避する法的対応法
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未払い残業代は全国的に広く見られる労働問題であり、熊本県も例外ではありません。熊本地裁では、実際に未払い残業代に関する訴訟が提起されており、2024年2月には熊本市の企業に対して462万円の未払い残業代支払いを命じる判決が下されています。
未払い残業代の存在が判明したときは、会社に対して残業代請求をすることは労働者として当然の権利です。しかし、労働者の中には「残業代請求をすると会社から報復されるのではないか」などリスクをおそれて残業代請求を躊躇する方も少なくありません。想定されるリスクは、ほとんどが違法な行為ですので、リスクをおそれて残業代請求を控えてしまうのは得策ではありません。
今回は、未払い残業代請求のリスクとその回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。


1、未払い残業代請求に伴うリスク
会社に対して未払い残業代請求をすると、以下のようなリスクが想定されます。
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(1)会社から解雇や懲戒処分など報復的な対応をされる
未払い残業代請求をしたことで、会社から以下のような報復的な対応をされる懸念があります。
- 解雇
- 懲戒処分
- 左遷、降格
- 減給
残業代請求は、労働者の正当な権利の行使ですので、それを理由として上記のような報復対応をするのは基本的には違法となります。
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(2)キャリアへの影響
未払い残業代請求をしたことで、今後のキャリアに悪影響が生じる可能性があります。
未払い残業代請求をしなければ、順調に昇進を続けてキャリアアップすることができたようなケースでも残業代請求をしたことで会社との関係性が悪化し、昇進が遅れるなどの可能性は否定できません。 -
(3)職場での立場の悪化
未払い残業代請求をしたという噂が職場内で広まってしまうと、職場内での立場の悪化を招く可能性もあります。職場内での立場が悪化すると、従業員同士のコミュニケーションがうまくとれず、円滑に業務を進めていくことが困難になってしまいます。
また、残業代請求をしたことで経営者や上司から疎ましく思われて、パワーハラスメントなどの嫌がらせが発生する可能性も考えられるでしょう。
職場に居づらくなれば、会社を辞めるという選択を余儀なくされることもあるかもしれません。 -
(4)請求しても適切に支払われない
会社に対して未払い残業代請求をしても、会社からは以下のような反論がなされることがあります。
- 残業を指示していない
- 残業代の発生する時間外労働ではない
- タイムカードの勤務時間などに応じてすでに適切に残業代を支払っている
- 固定残業代を支払っているから残業代は支払えない
- 管理職(管理監督者)にあたる従業員には残業代は発生しない
しかし、実際には法的にみれば正当な反論でないものも含まれており、労働者の知識不足につけ込んでわずかな残業代の支払いだけで終わらせようとすることもあります。
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(5)転職先に残業代請求で会社ともめたことを密告される
未払い残業代を請求する際、「転職先に伝える」と脅されるのではと不安になることもあるかもしれません。
しかし、会社が従業員の個人情報を社外に漏らすことは違法となる可能性があります。また、レピュテーションリスク(会社の評判や信用低下)につながることも考えられます。実際にはそのようなケースはほとんどないと考えて問題ないでしょう。 -
(6)未払い残業代請求に伴う会社側の報復対応は、ほぼすべて違法行為
未払い残業代請求を理由とした会社側からの不利益な取り扱いは労働基準法第104条違反となります。
また、解雇や降格、減給などの報復的な対応は、労働契約法第16条(不当解雇の禁止)や第15条(懲戒権の濫用禁止)にも抵触する可能性があり、裁判でも無効と判断される可能性が高いでしょう。むしろ、会社から報復措置を受けた場合は、それを証拠として損害賠償請求も検討することができます。
したがって、会社側からの報復対応をおそれて残業代請求をためらうべきではありません。
2、会社との関係悪化を回避する戦略的準備
未払い残業代請求を行うと、会社の規模にもよりますが、会社との関係性が少なからず悪化することが予想されます。そのような事態を回避または最小限に抑えるためにも、以下のような準備を戦略的に進めていくようにしましょう。
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(1)未払い残業代に関する確実な証拠をそろえる
未払い残業代請求をするには、労働者の側で未払い残業代の存在を立証していかなければなりません。そのためには、未払い残業代に関する証拠が不可欠となります。会社としても労働者から十分な証拠が提示されれば、未払い残業代の支払いに応じざるを得ませんので、不当な圧力や報復を受けるリスクを抑えることができるでしょう。
なお、未払い残業代に関する証拠としては、以下のようなものが挙げられます。- タイムカード
- 勤怠管理システムのデータ
- 業務日報
- PCのログ記録
- オフィスの入退室記録
- 交通系ICカードの乗車記録
- 残業時間をまとめたメモ
詳細は後述しますが、このような証拠が集められなくても請求を諦める必要はありません。
弁護士に依頼すれば、会社に対して証拠の開示を求める手続きや裁判所を利用して証拠を集める手続きなどが可能です。 -
(2)正確な未払い残業代を算出する
未払い残業代に関する十分な証拠が入手できたら、その証拠に基づいて残業代を計算する必要があります。労働者の計算した残業代と会社が計算した残業代との間で食い違いが生じると、お互いに対立が生じてしまい関係性の悪化を招いてしまいます。
このような事態を回避するには、正確な未払い残業代を算出することが大切です。また、会社に残業代請求をする際には、残業代計算の根拠となった資料や計算方法を明示するようにしましょう。これによりお互いの認識の違いを明らかにし、無用な争いを防ぐことができるでしょう。
簡易的な残業代の算出はベリーベストの残業代診断をご活用ください。 -
(3)会社にバレないように準備を進める
未払い残業代請求をしようとしていることが会社にバレてしまうと、それを阻止するためにさまざまな嫌がらせを受ける可能性があります。証拠が確保できていない段階で会社にバレてしまうと、証拠へのアクセスを制限されるなどの妨害行為を受け、残業代請求が困難になるリスクも生じます。
このようなリスクを回避するためにも、会社にバレないように残業代請求の準備を進めていくのが得策です。
3、タイミング別:未払い残業代請求の方法
未払い残業代請求を在職中に行うか退職後に行うかは、それぞれの利点や注意点を考慮して慎重に判断する必要があります。
以下では、残業代請求をするタイミング別に未払い残業代請求の方法と注意点を説明します。
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(1)会社を辞めずに穏便に未払い残業代請求を行う方法と注意点
① 在職者が未払い残業代請求を行う方法
会社を辞めずに未払い残業代請求を行う場合、以下のような流れで行っていきます。- 残業代に関する証拠収集
- 未払い残業代の計算
- 内容証明郵便による残業代請求
- 会社との交渉
- 労働審判または裁判
会社に在職中であれば証拠収集も容易ですので、必要な証拠も集めやすいでしょう。
② 会社を辞めずに残業代請求をする際の注意点
会社を辞めずに残業代請求をするなら、会社との関係性の悪化を回避しなければなりません。
会社と交渉する際には、感情的にならずに冷静に話し合いをするよう努めましょう。また、会社から違法な報復がなされる可能性があるため、後日違法性を争うことができるように、録音や録画などにより証拠を残しておくことも重要です。 -
(2)会社を辞めてから未払い残業代請求を行う方法と注意点
① 退職してから未払い残業代請求を行う方法
退職してから未払い残業代請求をする方法は、基本的には辞めずに行う方法と同様です。- 残業代に関する証拠収集
- 未払い残業代の計算
- 内容証明郵便による残業代請求
- 会社との交渉
- 労働審判または裁判
ただし、会社を辞めてからでは証拠収集が困難ですので、残業代に関する証拠はできる限り退職前に集めておくようにしましょう
② 会社を辞めてから残業代請求をする際の注意点
残業代請求は会社を退職後でも行うことができますが、退職後に残業代請求をする場合は時効に注意が必要です。
残業代を請求する権利は、一定期間行使しなければ時効により消滅します。時効が成立すると会社に対して残業代請求を行うことができなくなってしまいます。令和2年の労働基準法改正により、残業代の時効は3年間となっています。
残業代の時効が迫っている場合には、内容証明郵便で残業代請求をすることで、時効の完成を6か月間猶予することができます。一時的な猶予ですが、その間に労働審判や訴訟の準備などを進めることができるため、検討してみるとよいでしょう。
4、未払い残業代請求の対応は弁護士に任せるべき理由
未払い残業代請求は、証拠集めや正しい残業代の計算、複雑な手続きなど、個人で一から調べるのはとても大変です。そんなときは、ぜひ弁護士に依頼することを検討してみてください。
以下では、未払い残業代請求を弁護士に任せるべき理由をいくつかご紹介します。
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(1)残業代請求に必要な証拠収集や残業代計算のサポートができる
未払い残業代請求に必要となる証拠は、具体的な事案によって異なります。弁護士に依頼すれば、必要となる証拠の種類や収集方法をアドバイスしてもらうことができ、会社に対して証拠の任意開示を求めていくこともできます。
また、残業代を請求する際には、残業代計算も必要になりますが、非常に複雑な計算となっているため、知識や経験がなければ正確に計算するのは困難です。弁護士に依頼すれば、残業代計算もすべて任せられるため、迅速かつ正確に未払い残業代の金額を計算してもらうことができます。 -
(2)代理人として会社と交渉ができる
会社に対して残業代請求をする場合、まずは会社との交渉を行っていく必要があります。しかし、労働者個人での残業代請求だと会社も真剣に対応してくれず、適当にごまかされてしまい残業代を支払ってもらえないケースも少なくありません。
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として会社と交渉することができるので、会社としても真摯(しんし)に対応せざるを得ない状況となります。弁護士であれば会社側からの違法な反論にも法的観点から適切に対応することが可能なので、適正な手続きで残業代の交渉をすることができるでしょう。 -
(3)労働審判や裁判にも対応できる
会社との交渉では解決できない場合には、裁判所に労働審判の申し立てや訴訟提起が必要になります。労働者個人では対応が難しいこれらの法的手続きであっても、弁護士に依頼すればすべて対応ができるので安心です。
ご自身の負担を少しでも減らすためにも弁護士に依頼するのがおすすめです。
お問い合わせください。
5、まとめ
残業代請求をすることでさまざまなリスクが想定されますが、会社からの報復行為はほぼすべてが違法となります。違法な報復行為には、法的観点から対抗していくことができるため、そのようなリスクをおそれずに残業代請求を行っていきましょう。
残業代請求にあたっては、弁護士のサポートがあると心強いです。会社への残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています