産業廃棄物の転売は違法? 従業員が勝手に行った場合の対応
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産業廃棄物を転売すると、民事上の損害賠償のみならず、産業廃棄物処理法上の刑事処分を受ける可能性があります。
熊本県でも、平成30年1月1日から令和5年4月1日までの期間に、産業廃棄物処理業・処理施設許可取消処分という処分が21件なされています。
本コラムでは、産業廃棄物の不正転売の問題点や、従業員が勝手に転売を行った場合にとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説いたします。
1、産業廃棄物の処理に関するルール
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(1)産業廃棄物に関する法律は何がある?
企業が事業活動を行う中で、さまざまなごみが出ることは避けては通れません。
そして、ごみの処理についてルールがなければ、大量に排出されたごみを適切に管理・処理することができず、不適切な投棄がされ街はごみであふれかえり、街が汚染されて環境にも甚大な悪影響がもたらされる可能性があります。
そのため、廃棄物の処理については、昭和46年から施行された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によってルールが定められています。
なお、この法律は廃棄物処理法や廃掃法と略称されることが多く、以下では本コラムでも「廃棄物処理法」と表記します。 -
(2)廃棄物処理法とは?
廃棄物処理法は、廃棄物が排出されることを抑制し、適正な処理を行い、環境を清潔にすることで、生活環境の保全および公衆衛生の向上を図ることを目的にした法律です。
その目的を達成するために、廃棄物の処理、処分、運搬などに関するルールが定められています。
とりわけ、会社の事業活動によって排出される産業廃棄物については、厳しいルールが設けられています。
廃棄物処理法に違反した場合には懲役刑や罰金刑といった罰則を科される可能性があるため、事業者としては法に違反せず適切に廃棄物を処理するように注意しなければなりません。
以下では、廃棄物処理法のルールを簡単に解説します。・会社は自ら産業廃棄物を処理しなくてはならないのが原則
産業廃棄物を排出した会社は、家庭ごみのようにごみ集積所で回収してもらうようなことはできません。
会社は自ら産業廃棄物を処理することが義務付けられています(廃棄物処理法11条1項)。
・産業廃棄物の処理基準、運搬基準
会社が自ら産業廃棄物を運搬し処分する場合には、産業廃棄物処理基準(廃棄物処理法12条1項)に従う必要があります。
また、運搬されるまでの間には、会社は産業廃棄物保管基準(13条1項)に従った保管が必要です。
・処理を委託する場合
会社は産業廃棄物を自ら処理するのが原則ですが、自らは処理できない場合には、委託することが許されています(12条5項)。
委託にあたっては、産業廃棄物の運搬は、都道府県知事の許可を受けた産業廃棄物収集運搬業者、処分についても都道府県知事の許可を受けた産業廃棄物処分業者などに委託する必要があります。
そして、会社が産業廃棄物の運搬・処分を委託する場合には、自ら処理する場合に基準があったのと同様に、委託に関する基準にも従わなければなりません(12条6項)。
この委託をする場合には、運搬・処分について書面によって法定の事項を定めた委託契約書を締結する必要があります。
さらに、委託する場合には、委託先にマニフェスト(所定の事項を記載した「産業廃棄物管理票」)を交付して、産業廃棄物の処理が適切に行われているかどうかを確認・管理しなければなりません。
・受託者の義務
産業廃棄物の運搬や処理を受託した処理事業者は、都道府県知事等から産業廃棄物処理業の許可を得ておかなくてはなりません。そして、処理基準に従い、産業廃棄物を適正に処理する必要があります。
委託元からマニフェストの交付を受けた場合には、適宜必要となる所定の事項を記入し、委託元へ返送し、処理の実績を把握するたに帳簿の作成などしなくてはなりません。
このように、会社は自ら排出した産業廃棄物を自らの責任で処理することを原則として、厳格なルールに従う必要があります。
委託する場合にも、委託するためのルールや受託者の処理ルールなど、産業廃棄物を適正に処理するためのルールが徹底されているのです。
2、産業廃棄物を転売したらどうなる? 問われうる罰則は? 従業員が勝手に行った場合はどうなるのか
以下では、産業廃棄物の処理を委託された業者が産業廃棄物を転売したとき問われる罰則や、従業員が勝手に転売を行った場合に生じる問題を解説します。
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(1)発生しうる責任
産業廃棄物の処理を委託された業者が産業廃棄物を転売したときには、債務不履行による損害賠償責任やマニフェスト虚偽記載による罰則、詐欺罪などに問われる可能性があります。
① 債務不履行による損害賠償責任
産業廃棄物処理を委託された業者は、産業廃棄物の処理に関する委託契約を締結しなくてはなりません。
この委託契約では、産業廃棄物を処分場で廃棄物処理法に従い適切に処理することが委託されています。
そして、産業廃棄物を転売・横流しすると、この委託に反することになります。
委託に反すると、「契約違反」すなわち「債務不履行」となります。
これにより、委託元の会社に損害が発生した場合には、廃棄物処理業者はその損害を賠償する義務があります。
産業廃棄物を転売した場合に生じうる損害の具体例としては、「産業廃棄物の回収費用」などがあります。
② マニフェストへの虚偽記載による罰則
前述のとおり、産業廃棄物の処理を委託する会社は、委託にあたってマニフェストを交付して産業廃棄物の処理が適切かどうかを把握しなくてはなりません。
そして、委託を受けた廃棄物処理業者は、適宜運搬や処分が完了した段階でその旨を記載して、委託元に返す必要があります。
しかし、転売を行った廃棄物処理業者は、廃棄物を適正に処分しなかったことを偽ってマニフェストには「処分が完了した」という旨を記載するでしょう。
マニフェストに虚偽の記載をしたことが発覚したら、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられることになります(廃棄物処理法27条の2第1号)
③ 詐欺罪
マニフェストに虚偽の記載をするなどして産業廃棄物の処理を委託した会社をだました場合には、刑法に定める詐欺罪が成立する可能性があります。
詐欺罪が成立するためには、「欺罔(ぎもう)行為」が必要です。
廃棄物処理業者が、委託を受ける際に、当初から転売することを目的にして委託を受け、その報酬を得たような場合には、欺罔(ぎもう)行為があったと判断される可能性があります。
詐欺罪が成立した場合には、10年以下の懲役に処せられるおそれがあります。 -
(2)従業員が勝手に行った場合
会社が組織ぐるみで転売した場合ではなく、会社の許可なく従業員が勝手に転売をした場合、マニフェストの虚偽記載や詐欺罪などについては、社長や役員が関与していないのであれば基本的には従業員のみが罪に問われることになります。
しかし、従業員が勝手にやったからといって、委託にもとづいて適正に廃棄物を処理するという契約に廃棄物処理業者が違反していることには変わりません。
したがって、従業員が会社の許可なく、勝手に転売したような場合であっても、会社は委託元に対して債務不履行にもとづく損害賠償責任を負うことになります。
3、実際の事例
以下では、産業廃棄物の転売について実際に問題となったケースを紹介します。
過去に、食品製造業者から処理を委託された食品廃棄物が、産業廃棄物処理業者により不正に転売され、食品として流通してしまうという事案がありました。
このケースでは、委託元である食品製造業者は産業廃棄物処理業者に対して損害賠償を請求しました。
また、産業廃棄物処理業者の関係者は、マニフェスト虚偽記載罪、詐欺罪および食品衛生法違反によって刑事処分を受けることになりました。
なお、食品衛生法違反については、転売の対象となった廃棄物が食品であり、食品を販売するという食品衛生法上の許可が必要な行為にもかかわらず、この許可なくして食品を販売するという行為が罪に問われました。
4、社内体制の見直しや対応は弁護士へ相談を
廃棄物処理法にはさまざまなルールがあり、廃棄物処理業者はこれらのルールを厳格に順守して活動を行わなければなりません。
もし廃棄物処理法に違反した場合には、刑事処分を受ける可能性があります。
また、産業廃棄物処理業者として各種許認可が取り消されてしまう可能性もあるほか、多額の賠償責任を負う可能性もあるなど、刑事処分以外にもさまざまペナルティーを受けるおそれがあるのです。
これらのリスクを避けるためには、社内のルール作りと従業員教育を徹底することが重要です。
産業廃棄物処理に関わる会社の経営者の方は、社内体制の見直しや対応を適切にすすめるため、顧問弁護士に相談することを検討してください。
5、まとめ
産業廃棄物の処理については数多くのルールがあり、産業廃棄物処理業者にはこれらを順守する体制を構築することが求められます。
ベリーベスト法律事務所では多様なプランのある顧問弁護士サービスを用意しており、社内体制の整備も含めた、企業のニーズに合った柔軟な対応を実施しています。
産業廃棄物の処理に関わる企業の経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています