請負契約と準委任契約の違いとは? 業務委託の注意点を弁護士が解説
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近年、組織のスリム化や人件費削減などのために、一部の仕事をアウトソーシングする企業が増えてきています。
業務を外注するときには、業務委託契約の締結が必要です。
ただ、一口に業務委託といっても「準委任契約」と「請負契約」があり、仕事の内容などによって向き不向きがあります。
熊本県に本社を構えている企業の経営者でも、専門分野の外注などを考えられている場合があるでしょう。しかし、きちんと調べずに契約すると、後で不利益を被る可能性もあるのです。
そこで、今回は請負契約と準委任契約の違いや契約の際の注意点などについて、弁護士が解説します。
1、業務委託契約とは
一般的に、社外に仕事を任せる場合には業務委託契約が締結されます。まずは業務委託契約とはなにか、どのような種類があるのかについて簡単にご説明します。
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(1)業務委託契約の定義
業務委託とは、社外に自社業務の一部を委託することです。
「業務委託」は法律で定められた用語ではありませんが、社会で広く使われています。
仕事が多くて社内では対応しきれない場合や、専門知識が必要な場合、外注した方がコストを抑えられる場合など、さまざまな場面で活用されています。
雇用契約を結んだ社員とは異なり、受託者はそもそも「労働者」ではないため、労働基準法や労働契約法は適用されません。
そのため有給休暇の付与、残業代の支給、社会保険の加入などは不要です。 -
(2)2種類の業務委託契約
業務委託契約には、大きく分けて次の2種類があります。
- 請負契約
- 準委任契約
請負契約とは、依頼した仕事の完成に対して報酬を支払う契約のことです。
民法第632条に規定されています。
「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」
準委任契約とは、法律行為以外の事務処理を委託する契約のことです。
基本的に委託者と受託者の信頼関係に基づきます。
民法第656条に規定されています。
「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」
ほかに委任契約もありますが、これは弁護士に裁判の代理人を依頼する場合など、業務が法律行為に該当するケースにのみ利用されます。
対象がかなり限定されているため、業務委託といえば請負契約と準委任契約の二つがあげられることがほとんどです。
2、準委任契約と請負契約の6つの違い
準委任契約と請負契約は、同じアウトソーシングでも次のように目的や責任の程度が異なります。契約をする場合は、その点をしっかりと理解しておく必要があります。
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(1)目的
請負契約と準委任契約の目的は、それぞれ次のようになっています。
- 請負契約:仕事の完成
- 準委任契約:事務処理の遂行
この「仕事の完成が目的かどうか」は、両者を区別する最も大きな点といえます。
請負契約における仕事の完成とは、システム開発であれば新規システムの完成、建築関係であれば建物の完成などです。
一方、準委任契約では任せられた仕事を遂行すればよく、仕事の完成という結果は必ずしも求められません。
ビルの管理や家庭教師がこれにあたります。 -
(2)義務・責任
請負契約と準委任契約は、それぞれ次のような義務・責任を負います。
- 請負契約:完成責任、瑕疵(かし)担保責任
- 準委任契約:善管注意義務
請負契約では仕事の完成がマストであり、請負人には仕事を完成させる責任があります。
また完成物に不具合があった場合に生じる「瑕疵担保責任」も負います。
瑕疵担保責任とは、完成物に瑕疵があった場合に、発注者が請負人に当該箇所の修正や損害の賠償を求めることができるというものです(民法第634条、令和2年4月より「契約不適合責任」に名称変更)。
不具合が重大で契約の目的が達成できない場合は、建物などを除き、契約解除も可能です(民法第635条)。
瑕疵担保責任を負う期間は原則として成果物の引き渡しから1年、建物の場合は5年です。
一方で準委任契約では受託者に瑕疵担保責任はありませんが、「善管注意義務」を負います(民法第644条)。
善管注意義務とは、職業や能力などからみて一般的に求められる程度の注意を払う義務のことです。
明らかな手抜き作業があった場合などは、委託者は受託者に賠償請求ができます。 -
(3)報酬請求時期
報酬の請求時期は次のように異なります。
- 請負契約:仕事の完成・納品時点
- 準委任契約:業務処理が遂行された時点
請負契約では仕事の完成への対価として、報酬が支払われます。
そのため原則として、仕事の完了や成果物の引き渡しと同時に報酬が支払われます(民法第633条)。
準委任契約は、事務処理遂行の対価として報酬が支払われます。
成果がでなかったとしても、定められた仕事が適切に行われていれば報酬は請求できます。 -
(4)成果物
成果物の有無については、次のような違いがあります。
- 請負契約:原則、成果物あり
- 準委任契約:原則、成果物なし
請負契約では、完成した成果物を納品する必要があります。
建築関係であればビルや家などの建物、ホームページ制作であればホームページが成果物です。
一方で準委任契約は事務処理が目的であり、成果物の納品は求められていません。
たとえば、ビル清掃の場合、定められた清掃業務が終わればそれで良いのです。
なお、コンサルティングなどでは、調査票や報告書などの成果物が発生するケースがありますが、成果がでたからといって請負とはみなされません。 -
(5)契約解除の可否
契約解除は、請負契約でも準委任契約でも可能です。
正確にいうと、請負契約では仕事の完成までであれば契約解除できますが、注文者は請負人に損害賠償をしなければいけません。
準委任契約では委託者だけではなく受託者からでも、いつでも契約解除が可能です(民法第651条)。
これは準委任契約が信頼関係に基づくものであり、その関係が壊れた場合には契約を終了することも考えられるためです。
ただし、委託者または受託者にとって不利な時期に解除する場合は、解除をする者は相手方の損害を賠償する必要があります。 -
(6)下請け・再委託
請け負った業務を第三者に委託する「下請け・再委託」についても違いがあります。
- 請負契約:原則、可能
- 準委任契約:原則、不可
請負契約はあくまで仕事の完成が目的であり、誰が行うかは基本的に問われません。
そのため、下請けに出しても問題はありません。
ただし、下請けを禁止する契約になっている場合はできません。
一方で準委任契約は、委託者と受託者の信頼関係に基づく契約であるため、原則として再委託はできません。
ただし、注文者が認めた場合には、再委託も可能です。
3、請負契約と準委任契約、どちらを選択するべき?
これまでご説明したように、請負契約と準委任契約にはさまざまな違いがあります。後々のトラブルを防ぐためには、依頼内容にあった契約を選ぶことが大事です。迷った場合は、次のような点を参考にしてください。
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(1)仕事の完成が目的かどうかで判断
判断の一番大きなポイントは、仕事の完成を目的としているかどうかです。
仕事の完成や成果物を求める依頼内容である場合には、請負契約が向いています。
たとえば、システム開発、建物の建築、運送などです。
逆に仕事の完成よりも、依頼した事務を遂行してもらうことが目的である場合には、準委任契約の方がよいでしょう。
たとえば、マンションの管理、家庭教師やエステなどです。
依頼内容があいまいな場合、長期間継続して依頼したいという場合にも、準委任契約が利用される傾向にあります。 -
(2)フェーズごとの使い分けも可能
請負契約と準委任契約では目的が大きく異なるため、IT系の仕事などでは一つのプロジェクトで、フェーズごとに契約を変えるという手法がとられることがあります。
プログラミングなど求める成果物がはっきりしている段階では請負契約、運用テストなどの段階では準委任契約といった使い分けです。
4、業務委託でのトラブルを防ぐには?
仕事の外注は企業にとって良い面が多いですが、トラブルになることも少なくありません。それを防ぐためには、次のような点に注意してください。
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(1)案件に適した契約を選ぶ
請負契約と準委任契約は、目的や責任、報酬支払い時期などに大きな違いがあります。
そのため依頼する仕事に適した契約形態を選ぶことが大事です。
まずは仕事の完了を目的とするかどうかを考えてください。
そのうえで成果物の有無や報酬の支払い時期などについて検討し、どちらの契約にするかを決めましょう。 -
(2)実態に即した契約を結ぶ
請負契約か準委任契約かは、契約書の見出しではなく中身で決まります。
「請負契約書」という題名がついていたとしても、契約書の中身が準委任契約に該当するものであった場合は、準委任契約とみなされます。
また、請負契約を結んでいたとしても、実際に行われる仕事が準委任契約にあたるものであれば、準委任契約です。
わかりにくい契約書や、契約書と実態の違いはトラブルの元です。
契約の際には請負人や委託者とともに内容をしっかりと確認し、双方の認識に違いが生じないようにしましょう。
トラブルになったり裁判になったりした場合には、実態で判断されますので注意してください。 -
(3)雇用契約ではないと認識
請負や準委任契約は、雇用契約とは大きく異なります。
たとえば、会社は雇用契約を結んだ労働者に対しては指揮命令権を有しますが、請負または準委任契約を結んだ請負人・委託者に対しては、指揮命令権がありません。
注文者が細かく作業を指示するなど、明らかな指揮監督下にあるとみなされる場合には、請負や準委任契約であっても実態は雇用と判断される可能性があります。
また、勤務時間や勤務場所が指定されている、仕事の依頼を受けるかどうか選択する自由がない、といった点も雇用契約にあたるかどうかの判断のポイントです。
雇用と判断されれば労基法が適用されるため、残業代の支給など勤務条件がかなり変わります。
雇用契約ではないということは、きちんと認識しておきましょう。
5、まとめ
請負契約と準委任契約の違いについては判断が難しい面があり、契約の際に迷うことも多いでしょう。アウトソーシングが珍しくない現代では、契約をめぐるトラブルも頻発しています。
どちらの契約にすべきか迷った場合やトラブルが発生した場合には、すぐにベリーベスト法律事務所 熊本オフィスにまでご相談ください。弁護士が対処方法のアドバイスをしたり、裁判などの法的手続きを進めたりして、お客様をサポートします。
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