執行猶予と実刑は何が違う? 執行猶予が付くための条件とは

2021年06月14日
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執行猶予と実刑は何が違う? 執行猶予が付くための条件とは

司法統計によると、令和元年、熊本地方裁判所では、485件の有罪判決が下されています。有期懲役刑となった事件が432件あり、そのうち執行猶予が付いたものが224件ありました。このような統計からすると、懲役刑を言い渡された事件のうち約半数以上の事件で執行猶予が付いていることがわかります。

テレビのニュースなどを見ていると、「懲役○年、執行猶予○年の判決が言い渡された」という表現をよく耳にします。有罪判決であるにもかかわらず、執行猶予付き判決を言い渡された人は自由に生活しているため、実刑判決と執行猶予付き判決とでは何が違うのか疑問を持つ方もいるでしょう。刑事事件では、実刑判決となるか執行猶予付き判決となるかによって、判決を受けた被告人のその後の生活は大きく異なってきます。

本コラムでは、執行猶予付き判決と実刑判決との違いや執行猶予が付くための条件について、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説いたします。

1、執行猶予付き判決とは? 実刑との違い

執行猶予付き判決とはどのような内容の判決なのでしょうか。以下では、執行猶予判決の概要や実刑との違いについて説明します。

  1. (1)刑事事件の判決の種類

    刑事事件の判決には、大きく分けて有罪判決と無罪判決があります。
    有罪判決で下される刑罰には、様々な種類があります。軽い方から順に並べると、科料、拘留、罰金、禁錮、懲役、死刑となります。

    ① 科料
    科料とは、1000円以上1万円未満の金銭を支払う刑罰のことをいいます。

    ② 拘留
    拘留とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘束される刑罰のことをいいます。

    ③ 罰金
    罰金とは、1万円以上の金銭を支払う刑罰のことをいいます。

    ④ 禁錮
    禁錮とは、1月以上の期間、刑事施設に拘束される刑罰のことをいいます。懲役刑との違いは、禁錮では刑務作業を義務付けられることはないという点です。禁錮には、無期と有期があり、有期の場合は、1月以上20年以下の期間を定めて拘束されることになります。

    ⑤ 懲役
    懲役とは、1月以上の期間、刑事施設に拘束されて刑務作業を義務付けられる刑罰のことをいいます。懲役には、無期と有期があり、有期の場合は、1月以上20年以下の期間を定めて拘束されることになります。

    ⑥ 死刑
    死刑とは、罪を犯した人の命を絶つ刑罰のことをいいます。殺人などの重大な犯罪について、死刑が法定刑として定められています。
  2. (2)執行猶予付き判決とは

    刑事事件で上記のような有罪判決を受けたときには、一定の金銭の支払いを命じられたり、刑務所に収容されて身柄拘束されたりすることになります。しかし、執行猶予付き判決が言い渡された場合には、罰金の支払いや刑務所への収容が一定期間猶予されることになるのです。

    たとえば「懲役3年、執行猶予5年」という判決が言い渡された場合には、直ちに刑務所に収容されることなく、社会に出て普通に生活を送ることができます。そして、執行猶予期間の5年間何の罪も犯すことなく生活できたときには、言い渡された刑罰を受ける必要がなくなるのです。

    仮に、執行猶予期間中に何らかの罪を犯して有罪となってしまうと、執行猶予は取り消されてしまい、新たな犯罪の刑に加え、猶予されていた刑も併せて受ける必要があります。
    なお、執行猶予付き判決は有罪判決の一種ですので、執行猶予が付いたからといって前科にならない、というわけではありません。また、執行猶予期間が満了したとしても、言い渡された刑は効力を失いますが、前科としては残る点にも注意が必要です

  3. (3)実刑判決とは

    実刑判決とは、有罪判決のうち執行猶予が付かない自由刑の判決をいいます。実刑判決を言い渡された場合には、直ちに刑務所などに収容されることになります。そのため、有罪判決を言い渡されたときには、執行猶予が付くかどうかが、被告人にとっては大きな分かれ目となるのです

2、執行猶予が付く条件

有罪判決であれば、どのような場合でも執行猶予が付くわけではありません。執行猶予を付けるかどうかは最終的には裁判官が判断することになりますが、執行猶予を付けるためには一定の法律上の要件を満たしていることが必要となるのです。

  1. (1)有罪判決の内容

    執行猶予を付けることができるのは、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」を言い渡す判決のときになります(刑法25条1項)。有罪判決のうち、科料、拘留、死刑判決については、法律上、執行猶予を付けることはできません。

    また、執行猶予を付けることができる懲役と罰金についても期間と金額に定めがあります。たとえば、強盗殺人など法定刑が「死刑または無期懲役」とされている罪については、執行猶予が付くことはないのです

  2. (2)被告人の状況

    被告人に前科がない、または、前科があったとしても罰金刑以下の刑であったときには、執行猶予を付けられる可能性があります(刑法25条1項1号)。

    仮に、過去に禁錮以上の刑に処せられたとしても、その刑の終了から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがなければ、同様に、執行猶予を付けられる可能性があるのです(刑法25条1項2号)。

3、執行猶予を獲得するためにできることはある?

上記の執行猶予の条件については、あくまでも執行猶予を付けることができる条件でしかありません。条件を満たすからといって必ず執行猶予を付けてもらえるわけではなく、最終的に執行猶予を付けるかどうかは裁判官の判断に委ねられています。

もっとも、以下のような事情がある場合には、一般的に言って、執行猶予を獲得するにあたって有利になるのです。

  1. (1)被害者との示談

    執行猶予を獲得するにあたっては、被害者との示談が成立しているかどうかも大きな要素となります。犯行態様や犯行動機、被害の程度なども執行猶予を付けるかどうかの考慮要素になりますが、後から変えることができません。そのために、被害者と示談を成立させることができるかどうかが非常に重要となるのです。

    被害者との間で示談が成立すれば、被害が一定程度回復されて、被害者から一定の許しを受けたものと評価されます。そのため、執行猶予を付けるかどうかの判断だけでなく、量刑が判断される際にも有利にはたらくのです。

    もっとも、被疑者や被告人自身が直接被害者と接触するということが困難であることも多いので、被害者との示談交渉については、弁護士に依頼したうえで行うようにするとよいでしょう

  2. (2)本人の反省

    執行猶予は、社会において本人の更生を促すための制度です。そもそも、全く反省もしていないような人を社会に出してしまうと、再び犯罪を行ってしまうおそれがあるため、裁判官としても執行猶予を付けるかどうかは慎重に判断せざるをえません。

    そのため、被告人自身が自分の犯した罪にきちんと向きあい、反省しているという事情も重要になってくるのです。

    刑事裁判では、本人の反省文を提出したり、被告人質問で反省の弁を述べたりするなどして、本人の反省の気持ちを伝えていくことになります。

  3. (3)周囲のサポート

    本人が裁判後にスムーズに社会復帰できるように周囲のサポートが確保されていることも重要な要素となります。お金がなくて万引きをしたケースで、釈放後に帰る家もなく、支えてくれる人もいないという状態では、再び罪を犯してしまうことが容易に想定されます。そのため、家族が身元引受人となったり、社会復帰後の就業先が決まっていたりするといった事情があれば、執行猶予付き判決を獲得するにあたっては有利な事情となるのです。

4、執行猶予中の生活で注意するべき点

執行猶予付き判決を獲得した方は、社会に復帰して生活していくことになりますが、執行猶予中の生活において注意しなければならない点があります。それは、「執行猶予期間中に罪を犯してしまう」ということです。執行猶予期間中に罪を犯してしまった場合には、せっかく獲得した執行猶予が取り消されてしまうことがありますので、特に注意が必要になります

① 執行猶予が必ず取り消されてしまうケース
刑法26条では、以下のようなケースでは、執行猶予を取り消さなければならないと規定されています。

  • 猶予の期間内にさらに罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言い渡しがないとき(同条1号)
  • 猶予の言い渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言い渡しがないとき(同条2号)
  • 猶予の言い渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき(同条3号)


② 執行猶予を取り消すことができるケース
執行猶予が必ず取り消されてしまうわけではありませんが、以下のケースに該当するときには、執行猶予が取り消される可能性があります(刑法26条の2)。

  • 猶予の期間内にさらに罪を犯し、罰金に処せられたとき(同条1号)
  • 保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき(同条2号)
  • 猶予の言い渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき(同条3号)


罰金刑でも執行猶予が取り消されてしまいますので、執行猶予期間中に自動車を運転するときには、スピード違反にも注意しなければなりません。また、保護観察に付せられた場合には、特に遵守事項についても注意して行動する必要があります

5、まとめ

本コラムでは、執行猶予と実刑判決の違いについて解説いたしました。
罪を犯して裁判になった場合には、執行猶予が付くかどうかで、その後の生活は大きく変わってしまいます。そのため、執行猶予が付く可能性がある事案では、執行猶予獲得に向けた弁護活動が重要となってくるのです。

執行猶予付き判決に向けたサポートを希望する方は、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスまでお気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています