離婚時の財産分与で生命保険はどうなる? 対象とならないケースを紹介

2025年03月19日
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離婚時の財産分与で生命保険はどうなる? 対象とならないケースを紹介

熊本市統計書によると、令和4年の熊本市の離婚件数は1189件でした。

離婚の際には、共有財産を公平に分ける「財産分与」を行います。財産分では、生命保険の解約返戻金も、財産分与の対象になることがあります。

本記事では、離婚時における生命保険の財産分与について、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。


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1、離婚すると生命保険はどうなる?

夫婦が離婚する際には、婚姻中に取得した共有財産を公平に分けます(=財産分与。民法第768条、第771条)。
生命保険についても、解約返戻金がある場合は、財産分与の対象になることがあります。

  1. (1)生命保険の解約返戻金は、財産分与の対象になり得る

    積み立て型の生命保険は、解約時に解約返戻金を受け取ることができます。

    実際にはまだ生命保険を解約していなくても、将来解約返戻金を受け取ることができる権利(=解約返戻金請求権)には財産的価値があります。
    そのため、夫婦が離婚する際には、共有財産である生命保険の解約返戻金相当額が財産分与の対象となります

  2. (2)財産分与の対象となる解約返戻金の範囲

    財産分与の対象となる生命保険の解約返戻金は、婚姻中に払い込んだ掛け金(保険料)に対応する部分です。夫婦のどちらが掛け金を支払ったのかを問いません。

    生命保険に加入したのが婚姻後である場合は、原則として解約返戻金相当額の全額が財産分与の対象となります

    これに対して、生命保険に加入したのが婚姻前である場合は、婚姻の前後で支払った掛け金を区分した上で、対応する解約返戻金の額を計算します。

    (例)
    婚姻時に解約したと仮定した場合の解約返戻金が300万円、離婚時に解約したと仮定した場合の解約返戻金が700万円
    →財産分与の対象となる解約返戻金相当額は400万円


    ただし後述するように、掛け金を親が支払った場合や、贈与を受けたお金を掛け金に充てた場合など、解約返戻金相当額が財産分与の対象にならないこともあります。

  3. (3)財産分与の割合は2分の1ずつが原則

    財産分与の割合は、原則として2分の1ずつとされています。

    夫婦のうち、いずれか一方の収入が少ない場合や全くない場合でも、財産分与の割合は2分の1ずつが原則です。婚姻中の収入は夫婦の協力によって得られたものであるため、2分の1ずつが公平と解されています。

    ただし例外的に、いずれか一方が特別な才能・技術・資格などを用いて収入を得ていた場合などには、財産分与の割合に傾斜が設けられることがあります。

2、生命保険が財産分与の対象にならないケース

以下に挙げるような場合には、生命保険の解約返戻金相当額が財産分与の対象になりません。

  1. (1)掛け金を親が支払った場合

    生命保険の掛け金を支払ったのが婚姻中でも、その掛け金を親が支払った場合には、対応する解約返戻金相当額は財産分与の対象になりません

    親から贈与を受けた財産は、原則として「自己の名で得た」ものに当たるため、婚姻中に取得したものでも財産分与の対象外です(民法第762条第1項)。

    生命保険の掛け金を親が支払った場合も、親から贈与を受けたものと同視できるので、対応する解約返戻金相当額が財産分与の対象外となります。

  2. (2)贈与を受けたお金を掛け金に充てた場合

    個人的に贈与を受けたお金を、そのまま生命保険の掛け金に充てた場合には、掛け金の支払いが婚姻中であっても、対応する解約返戻金相当額は財産分与の対象にならないと考えられます。

    贈与を受けたお金は「自己の名で得た」ものとして財産分与の対象外であるところ(民法第762条第1項)、そのお金がそのまま解約返戻金請求権へ転換したのであれば、同じく財産分与の対象外とすべきだからです。

    ただし、贈与を受けたお金を夫婦の共有財産に組み入れてから、その後に生命保険の掛け金を払い込んだ場合は、贈与を受けたお金も財産分与の対象になってしまう点にご注意ください(民法第762条第2項)。

    掛け金の支払いについて財産分与の対象外にしたい場合には、預貯金の入出金履歴や、贈与と掛け金の払込時期・金額などから、贈与を受けたお金をそのまま掛け金の支払いに充てたことを合理的に説明できるようにしておきましょう。

  3. (3)解約返戻金がない場合|掛け捨て型・団体信用生命保険など

    解約返戻金がない生命保険については、財産分与の対象になりません。たとえば、掛け捨て型の生命保険や住宅ローンの団体信用生命保険などは、財産分与の対象外です。

    生命保険のほかにも、公的保険(国民健康保険・健康保険など)や医療保険なども、財産分与の対象外となります。

  4. (4)婚姻する前に掛け金を払い終えた場合

    婚姻前の段階で掛け金を払い終えている場合、解約返戻金相当額は財産分与の対象になりません。財産分与の対象となる解約返戻金相当額は、婚姻中に払い込んだ掛け金に対応する部分に限られるためです。

3、離婚時に必要な生命保険に関する手続き

夫婦のいずれかが生命保険に加入している場合は、離婚に当たって以下の手続きを確実に行いましょう。

  1. (1)契約内容の確認

    財産分与や受取人変更の手続きを行うのに先立ち、前提となる情報を把握するため、生命保険契約の内容を確認しましょう。

    具体的には、以下の事項などを確認します。

    • 契約者
    • 被保険者
    • 受取人
    • 契約の時期
    • 契約の時期
    • 解約返戻金相当額、およびその推移
    など


    生命保険の契約内容や受取人は、保険証券や保険約款を確認すれば分かります。解約返戻金相当額については、保険会社のウェブサイト(マイページなど)で確認するか、保険会社に問い合わせましょう。

    特に、生命保険に加入したのが婚姻前である場合は、解約返戻金相当額のうち、財産分与の対象となる部分とそうでない部分を区別する必要があります。

    そのためには、解約返戻金の推移などを詳しく確認しなければなりません、自分で確認するのが難しければ、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

  2. (2)解約返戻金の財産分与

    財産分与の対象となる解約返戻金相当額がある場合は、離婚協議の中で財産分与の方法を話し合いましょう。

    財産分与の方法は、夫婦の共有財産全体を正確に把握した上で、それぞれの希望を十分にすり合わせて決めるべきです。生命保険のほか、預貯金・不動産・自動車など、さまざまな財産が分与の対象となります。弁護士のサポートを受けながら、財産の調査を適切に行った上で、双方が納得できる形での合意を目指しましょう

    財産分与に関する協議がまとまらないときは、離婚調停を申し立てましょう。調停委員の仲介により、財産分与その他の離婚条件について話し合うことができます。

    特に離婚協議がヒートアップしてしまい、冷静な話し合いができない状態にある場合は、離婚調停の申立てをおすすめします。

    離婚調停がまとまらず、調停が不成立になってしまった場合は、離婚訴訟を提起して財産分与について争いましょう。

    なお、財産分与は離婚後でも請求できます。ただし、離婚後の財産分与に関する裁判手続き(調停・審判)は、離婚成立日から2年を経過すると申立てができなくなるのでご注意ください。

    参考:「財産分与請求調停」(裁判所)

  3. (3)受取人の変更

    離婚する際、生命保険の受取人を変更するのを忘れないようにしましょう。婚姻中は、生命保険の死亡保険金の受取人を配偶者にしている方が大半です。

    生命保険の受取人には、自分が亡くなった後に財産を残したい人を指定しましょう。たとえば、両親や子どもなどが考えられます。

    生命保険の受取人変更を怠っていると、万が一自分が亡くなってしまった場合に、すでに離婚している元配偶者に対して保険金が支払われてしまいます。

    このような事態は、ご自身にとって不本意であるだけでなく、相続トラブルの原因にもなり得るので注意が必要です。離婚する際には、速やかに保険会社へ連絡して、生命保険の受取人変更を行いましょう。

4、財産分与について弁護士に相談するメリット

離婚時の財産分与をスムーズかつ適切な形で行うためには、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士は、離婚時の財産分与に関して、主に以下のようなサポートを行っています。

  • 夫婦の共有財産の調査、確定
  • 家庭の状況や希望に応じた、適切な財産分与方法のアドバイス
  • 離婚協議における、財産分与を含めた離婚条件に関する交渉
  • 離婚調停の申立て
  • 離婚訴訟の提起
  • 離婚後の財産分与に関する交渉
  • 財産分与請求調停の申立て、審判手続きへの対応
など


特に、財産分与に関して夫婦間で争いが生じている場合は、お早めに弁護士へご相談ください

まずはお気軽に
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【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
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5、まとめ

夫婦が離婚する際には、加入している生命保険の解約返戻金相当額が財産分与の対象になることがあります。

ただし、実際に生命保険を解約すると、同条件で再加入することが難しいかもしれません。解約せずに財産分与を行う場合は、他の財産とのバランスを調整したり、別途資金を準備したりする必要があります。

生命保険を含めた財産分与を適切な形で行うためには、弁護士のアドバイスが有効です。弁護士は、それぞれのご家庭の状況やご希望に合わせた最適な解決策をご提案いたします。おひとりで悩まず、まずはベリーベスト法律事務所 熊本オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています