住宅ローンは離婚したらどうなる? 残債の扱いや支払い義務を解説
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令和4年、熊本県では784件の婚姻関係事件の申し立てが行われました。婚姻関係事件とは夫婦関係の調整や離婚について行われる調停や審判のことです。
離婚をするときには多くのことについて話し合う必要があります。たとえば親権者をどちらにするか、養育費の金額や面会交流、慰謝料の有無や金額、財産分与などが代表的な例でしょう。また、持ち家がある場合、家をどうするのか話し合う必要があります。家を購入して離婚時も住宅ローンが残っていたら、残債や支払い義務はどうなるのでしょうか?
離婚をした場合に住宅ローンはどうなるのか、対処法を含めてベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が詳しく解説していきます。
1、離婚したら住宅ローンはどうなる?
離婚後の住宅ローンはどうなるのでしょうか? 2つのケースに分けて解説していきます。
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(1)家を残す場合
離婚時に家を売却せずに残す場合、住宅ローンの残債を財産分与として折半する必要があるのでしょうか?
結論から言うと、家を残す場合は住宅ローンの残債を折半する必要はありません。残した家の住宅ローンの残債は住宅ローンの名義人が払っていく必要があるからです。詳しくは後述します。 -
(2)家を売却する場合
家を売却する場合、「アンダーローン」の場合と「オーバーローン」の場合で住宅ローンがどうなるのかが異なります。それぞれみていきましょう。
- ① アンダーローンの場合
「アンダーローン」とは、住宅ローンの残債よりも家の売却金額が上回って利益が出る状態のことです。家を売却した金額で住宅ローンを完済した上で、残りの売却金額を折半することができます。
たとえば家の売却金額が3000万円で住宅ローンの残債が2000万円の場合、差し引いて残った1000万円が財産分与の対象です。不動産以外に財産がない場合にはこの1000万円を夫婦で折半し、それぞれ500万円受け取ることになります。
- ② オーバーローンの場合
売却金額でローンが完済できるアンダーローンとは異なり、住宅ローンの残債が家の売却金額を上回っている状態が「オーバーローン」です。オーバーローンの場合は住宅ローンを完済することができず、残債を財産分与として折半する必要はありません。
たとえば家の売却金額が3000万円で住宅ローンが3500万円残っている場合、家を売却しても500万円のローンが残ります。この500万円は財産分与の対象外となり、ローンはローンの名義人が払います。
家の売却金額は不動産屋や不動産鑑定士に依頼して査定してもらうことが可能です。そのため、家を売る場合まずは査定を依頼して「どのくらいの金額で売れるのか」「アンダーローンになるのかオーバーローンになるのか」を確認するようにしましょう。
- ① アンダーローンの場合
2、離婚後の住宅ローンの返済義務
離婚後、住宅ローンを返済する義務を負うのは誰になるのでしょうか。
ここで注意しておきたいのは、不動産の名義人と住宅ローンの名義人は同一とは限らない、ということです。不動産の名義人は、土地・建物の所有者を指し、住宅ローンの名義人は金融機関にローンを申し込んだ返済義務を負っている人を指します。どちらも法務局に行き、登記簿謄本で確認することが可能です。また、不動産の名義人は、法務局が提供する登記情報提供サービスでも確認できます。
不動産の名義や住宅ローンの名義が分からない場合には、登記簿謄本を取得して確認しておきましょう。
この章では、住宅ローンの名義人について、「単独名義の場合」「共有名義の場合」「連帯保証人になっている場合」の3つのケースに分けて、ローンの返済義務をそれぞれみていきましょう。
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(1)単独名義の場合
「単独名義」は住宅ローンを1人で組み1人で登記することです。夫が住宅ローンを1人で組む場合、住宅ローンは夫の単独名義ということになります。
住宅ローンの名義がこの単独名義の場合、離婚後も返済義務があるのは名義人です。そのため、離婚後も住宅ローンが夫の単独名義の場合は夫が支払いを続け、妻の単独名義の場合は妻が支払いを続けることになります。 -
(2)共有名義の場合
「共有名義」とは複数人で住宅ローンを組むことです。夫婦で出し合う場合や親子で出し合う場合もあります。
単独名義の場合と同様、住宅ローンが共有名義の場合も離婚後の住宅ローンの返済義務を住宅ローンの共有名義人が負います。
たとえば夫婦で1000万円ずつ住宅ローンを組む共有名義になっていた場合は、離婚後も住宅ローンを組んだ契約通りの返済を夫婦それぞれがする必要があります。離婚に伴い、名義変更をしたい場合の対処については、後述します。 -
(3)連帯保証人になっている場合
住宅ローンを組むとき、連帯保証人をつけることがあります。
連帯保証人とは、主債務者がお金を返済できなくなった場合、代わりに返済する人のことです。主債務者と全く同じ義務を負うため、主債務者が支払えなくなった借金は全て返済する義務があります。
たとえば夫が住宅ローンの主債務者となり妻が連帯保証人になっていたとしましょう。その場合、夫婦が離婚したとしても住宅ローンの借入を行っている金融機関の了承なく連帯保証人から外れることはできません。そのため主債務者の元夫が住宅ローンを返済できなくなった場合、別れた妻が返済する義務を負います。
妻が連帯保証人から外れたい場合、夫のみでローンの借り換えができるかどうかについて金融機関に相談してみましょう。
3、ケース別|住宅ローンが残っている家の対処法
住宅ローンが残っている家を売却せずに離婚後も一方が住み続ける場合、何か必要な手続きがあるのでしょうか?
住む人が不動産名義人なのか不動産名義人以外なのかによって対処法が異なるため、それぞれ見ていきましょう。(※今回は、単独名義であるものとして、解説していきます。)
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(1)住宅ローン名義人かつ不動産名義人が住み続ける場合
まずは家に住宅ローン名義人かつ不動産名義人が住み続ける場合についてみていきましょう。
離婚後、家に不動産名義人がそのまま住み続ける場合は、特に手続きをする必要はありません。また、自身が住んでいる家の住宅ローンを払い続けることになるため、住宅ローンについても必要な手続きはありません。ただし、離婚に伴い名字変更などが起きた場合は、登録情報の修正が必要です。 -
(2)住宅ローン名義人・不動産名義人のどちらでもない人が住む場合
次に、以下のようなケースを考えてみましょう。
- 不動産名義人……夫
- 住宅ローン名義人……夫
- 離婚後の住人……妻
「住み続ける人に住宅ローンや不動産の名義を変更したい」と思う方もいるかもしれません。しかし、不動産の名義変更は行いやすいですが、住宅ローンの名義変更は難しいのが実情です。
住宅ローンの名義変更は難しいものの、新しい金融機関で住宅ローンの借り換えを行うことで、住宅ローンの支払い義務者を離婚後の住人に変更することはできます。しかしながら、離婚後の住人に、借り換えができるだけの収入が必要です。
住宅ローンの借り換えを行わない場合は、基本的に離婚後も住宅ローンの名義人が返済を行うことになります。
とはいえ、離婚後に住まない家の住宅ローンの支払いを続けることは家を出て行く名義人にとって大きな負担にもなるでしょう。その負担を軽減するために、不動産名義人と家に住む人の間で家を借りる「賃貸借契約を締結」するとよいでしょう。
もっとも、住宅ローンの名義人と金融機関との契約内容の中に、住宅ローンの名義人が家を収益目的で家族以外に賃貸した場合には、金融機関はローンの一括返済を求めることができるという合意がされている可能性があります。そのため、賃貸借契約を締結する場合には、金融機関に相談しておいた方がいいでしょう。
先ほどのケースで考えると、住宅ローンの毎月の返済額全額あるいは一部の支払いを妻が夫にするという賃貸契約を締結します。賃貸契約を締結することは夫の金銭負担を軽くするだけではなく、妻にとっても夫が返済不可能になり家を突然売却されてしまうような状況を防ぐことができるメリットがあります。
ただし、不動産の名義人は家の売却ができるため、夫に勝手に家を売却されてしまうケースも考えられます。ただ、この場合であっても、賃貸借契約は新しいオーナーに引き継がれるため、すぐに退去しないといけないわけではありません。 -
(3)不動産の名義人ではあるが、住宅ローンの名義人ではない人が住む場合
離婚後の住人へ住宅ローンの名義人を変更したい場合、先述のとおり、住宅ローンの名義変更は難しいことから、住宅ローンの借り換えを検討する必要があります。借り換えを行わない場合は、住宅ローンの名義人が返済義務を負うため、離婚後の住人(不動産の名義人)と住宅ローンの名義人との間で、賃貸借契約を結ぶことを検討しましょう。
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(4)住宅ローンの名義人ではあるが、不動産名義人ではない人が住む場合
このケースでは、不動産の名義変更を行えば問題ないでしょう。住宅ローンの名義人と不動産名義人の両方を、住み続ける人の名義にすることで、自身が保有する不動産のローンを自身で返済していくことになります。
4、住宅ローン以外の財産分与の話し合いも必要
離婚時に考えるべき金銭問題には、住宅ローンだけではなく慰謝料や養育費、婚姻費用などいろいろな種類があります。そのひとつが財産分与です。財産分与の対象や財産分与の話し合いで変わる住宅ローンの支払い方法について詳しく解説していきます。
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(1)財産分与の対象
夫婦生活で築き上げた財産を分配する財産分与ですが、その対象となる主な財産(共有財産)は以下の通りです。
- 預貯金
- 不動産
- 結婚後に購入した家具や家電、車などの動産
これらは共有名義か単独名義かは関係なく、結婚後に購入している動産や不動産、結婚後に貯めた預貯金は基本的に財産分与の対象になります。財産分与の対象財産の中で「持ち家」に関しては、「住宅ローンが残っているか否か」によって財産分与の方法が異なることに注意が必要です。
住宅ローンが残っていない場合は、「家の売却金を折半する」あるいは「どちらかが家を取得し、家を出ていく配偶者に対して家の査定価値の半額を支払う」という方法で財産分与を行います。
一方、住宅ローンが残っている場合は先述のとおり、「アンダーローンで家を売却する場合」か「アンダーローンで家の売却はしない場合」「オーバーローン」かによって財産分与の方法が異なります。
「アンダーローンで家を売却する場合」には、家を売却した金額で住宅ローンを完済した上で財産分与の対象である「残りの売却金額」を折半します。
「アンダーローンで家の売却はしない場合」には、家の価値と住宅ローンの残債の差額が財産分与の対象であるとして、家を取得する側がこの差額を出て行く配偶者に支払うことになります。
その場合、協議の段階では実際に売れる額がわかるわけではないので、家を取得する側と出て行く側で、家の査定額について争いになることが予想されます。
「オーバーローン」の場合は基本的に財産分与の対象にならないため、住宅ローンの名義人が住宅ローンを支払い続けなくてはなりません。 -
(2)財産分与の対象外
財産分与の対象外となるのは以下のとおりです。
- ① 特有財産
結婚する前から持っている預貯金や結婚した後でも夫婦で協力して築いた財産ではないもの(受け取った遺産など)を「特有財産」といい、これらは財産分与の対象とはなりません。
- ② マイナスの財産
夫婦生活を営む上では関係のないギャンブルでの借金などは「マイナスの財産」といわれ、財産分与の対象とはなりません。
- ① 特有財産
5、ローンの支払いや財産分与についての取り決めは公正証書にするべき
住宅ローンや財産分与のような金銭が絡む問題は離婚後にトラブルが発生することもあります。ローンの支払いや財産分与についての話し合いで決まった内容は一般的な契約書ではなく「公正証書」にしておくことをおすすめします。
「公正証書」は公証人によって公証役場で作成してもらえる公文書です。公正証書を作成する時に当事者の立ち会いが必要なこと、そして公証人が職務上作成した文章であることから、公正証書は私文書に比べて高い証拠力を持っています。そのため、のちに「この文書は偽造されたもので内容に合意なんてしていない」と相手から言われてしまった場合であっても、その主張を否定できる可能性が高くなります。
また、契約書を自宅に保管しておくと紛失する可能性や、誰かに内容を書き換えられてしまうおそれもあります。公正証書を作成しておけば、公正証書の原本を公証役場で20年間保管してもらえるため、紛失や改竄のおそれもありません。
のちのトラブルを避けるためにも、話し合いで取り決めた内容は「公正証書」にしておきましょう。また公正証書の記入漏れや法的な不備はないかの確認、サポートのためにも公正証書の作成時には弁護士に依頼することをおすすめします。
6、まとめ
離婚をする場合、住宅ローンがどうなるのかについては家を残すのか売却するのか、売却するのであればアンダーローンになるのかオーバーローンになるのかなど手続きが複雑です。
また財産分与や住宅ローンについては離婚後もトラブルが起きる可能性も高いでしょう。
離婚を考えているが住宅ローンについて相談したいことがある場合や公正証書の作成を依頼したい場合など、お困りのことがありましたらベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士までご相談ください。
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