離婚や別居のときに必要な引っ越し費用はどこまで請求できる?

2021年05月18日
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離婚や別居のときに必要な引っ越し費用はどこまで請求できる?

令和元年度の熊本県の離婚率は人口1,000人あたり1.70人であり、日本の都道府県では12番目に高い離婚率となりました。

離婚の手続きをすすめていくと、やがては別居することになります。
自分が家を出ていく場合には、引っ越し費用に関する不安が大きいことでしょう。また、別居の原因が相手にあるという場合には、自分が引っ越し費用を払うのに納得がいかない、という人も多いはずです。
本コラムでは、「離婚の際の引っ越し費用は相手に請求できるのか」という問題について、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が詳しく説明いたします。

1、離婚や別居の際、請求できる可能性がある費用

  1. (1)別居のときに請求できる費用

    別居から離婚が成立するまでの間には、婚姻費用を請求することができます。
    婚姻費用とは、夫婦や子どもの生活費など、「婚姻生活を維持するために必要な一切の費用」のことです
    婚姻費用を夫婦のどちら側がいくら支払うかということは、夫婦間の話し合いによって決めることになります。
    話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることが可能です。
    裁判所では、夫婦の収入や子どもの人数と年齢によって、婚姻費用の算定基準が設けられています。この算定基準は、夫婦間の交渉でも利用することができます。

  2. (2)離婚のときに請求できる費用

    離婚の際に請求できる費用としては、以下の三種類が主になります。

    ① 財産分与
    財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を、離婚の際に分配することを指します。
    夫婦それぞれの名義の預貯金や現金、不動産、保険の解約返戻金などが財産分与の対象となります。
    なお、対象となる財産は、「結婚生活を営む過程で、二人で築いた財産」に限られます。したがって、婚姻前から相手が所有していた財産や、遺産相続で転がりこんだ財産などは、分与の対象にはならないのです。

    ② 慰謝料
    慰謝料とは、配偶者から受けた精神的苦痛に対して支払われるものです。相手が肉体関係を伴う不倫(不貞行為)をしたことや、DVなどによって暴力を振るわれたことを原因とする離婚では、慰謝料を請求することができます。
    一方で、単なる性格の不一致を理由とする離婚では、基本的に慰謝料を請求することはできません

    ③ 養育費
    未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、「どちらが親権をもって子どもを育てるか」ということは、離婚時に決定しなければなりません。
    実際に子どもと同居して養育していく側の親は、他方の親に対し、これから子どもを育てていくための費用を請求することができます。
    このように、離婚後に子どもを育てるための費用を養育費といいます。養育費は、親双方の収入、子どもの年齢と人数を基礎として決定されるのです。

2、引っ越し費用はどこまで請求できる?

法律的には、離婚によって家を出ていく側が相手に対して引っ越し費用を必ず請求できる、とは定められていません。
婚姻費用、財産分与、養育費などはいずれも請求の権利が法律で認められたものです。したがって、法的な要件を適切に満たしていれば、相手からの支払いを得ることが可能です。一方で、引っ越し費用を請求する権利は、法律的には認められていないのです。

ただし、あくまでも法律上の権利が認められていないということに過ぎず、相手に引っ越し費用の支払いを求めること自体は可能です
引っ越しする際には、引っ越し業者に払う費用だけでなく、引っ越し先の敷金礼金、仲介手数料、新しい家具や家電製品の購入費用など、想定を上回る出費がかさむものです。相手に支払いを強制することはできませんが、できるだけ支払ってもらうように交渉をすすめた方がよいでしょう。

3、支払いの交渉を行うべきタイミングは?

引っ越し費用を相手に支払わせるためには、こちらから交渉を行う必要があります。
交渉を行うべきタイミングについて解説いたします。

  1. (1)これから別居と離婚を考えているとき

    引っ越しをする前に引っ越し費用を支払ってもらえれば、金銭面の負担のみならず「引っ越しによってお金が無くなってしまうのではないか」という精神的な不安も大きく軽減させることができます。

    引っ越し業者から事前に費用の見積もりを出してもらえれば、相手にそれを提示して、その一部を支払うように要求することができます。
    別居の原因が相手にある場合には、支払ってもらえる可能性が高まります。
    また、相手が引っ越し費用の支払いに応じるかどうかは、「相手が離婚を望んでいるかどうか」によっても左右される面があります。相手が離婚を希望している場合は、配偶者が家を出ていくことは好都合なことであるため、引っ越しのための費用を出してもらえる可能性は高まるでしょう
    しかし、夫が離婚を望んでおらず、別居にも消極的な場合には、引っ越し費用を出してくれる可能性は低くなるのです。

  2. (2)離婚はしていないが別居は開始しているとき

    別居を決定する際に冷静な話し合いができない場合や、相手の暴力などから逃れるために、急に別居を始める場合もあります。
    引っ越し費用は、引っ越しを済ませた後からでも請求することができます。実際にかかった費用の領収書などを提示して、具体的な金額を請求しましょう。

  3. (3)離婚するとき

    「離婚をする」と夫婦間で決定した後には、財産分与や慰謝料、養育費などの金銭的な話し合いがすすんでいきます。
    この段階で離婚費用を請求する場合には、別居や離婚の原因が相手にあるか、離婚を相手が望んでいるかといった点がポイントになります
    相手が離婚を望んでいる場合は、離婚の条件として金銭を請求することが容易になるでしょう。また、離婚の原因が相手の側にある場合には、慰謝料とあわせて引っ越し費用も請求しやすくなるのです。

4、離婚や別居に伴う引っ越しの際に考慮すべきこと

離婚や別居を理由に引っ越しをする場合には、以下のような点に気を付けましょう。

  1. (1)生活費の確保

    引っ越しをして新たな生活をするとなると、今まで以上に生活費がかかる場合があります。家賃はもちろんですが、光熱費や駐車場代など、今までは配偶者と共同の家計から引き落としていた費用を、自分ひとりで負担することになるのです。
    離婚が成立するまでは婚姻費用を請求することができ、離婚が成立した後には財産分与が可能です。しかし、充分な金額を相手に請求できて、相手が適切に支払いを行ってくれるかどうかは、必ずしも保証されていません。
    そのため、引っ越し費用を支払った後にも数カ月は自分の負担で生活できるように、最低限の生活費を確保する必要性があるのです。

  2. (2)子どもの環境を考える

    夫婦間に子どもがいて、別居に伴い子どもを転居先に連れていく場合には、子どもの環境が大きく変化します。
    親の別居や離婚はそれ自体が子どもにとって心理的な負担になります。
    そのうえ、学校や友人関係といった社会的な環境が大きく変わると、子どもにとってはかなりのストレスがかかることになるでしょう
    引っ越しによる子どもの環境変化については、子どもともよく話し合い、できるだけ子どもが安心できる環境を整えられるように、事前から準備しておきましょう。

  3. (3)相手の財産資料をおさえておく

    離婚や別居は、相手に対して財産的な請求を開始するきっかけでもあります。
    財産の請求を適切に行うためには、相手の収入や資産状況について、しっかりと把握しておく必要があります。
    別居してしまうと、相手の収入や資産の状況が把握しづらくなってしまうものです。
    引っ越しをする前に、できるだけ相手の預金通帳や給与明細などを確認して、コピーをとっておくようにしましょう
    また、生命保険や年金手帳なども財産分与の際の重要な資料であるため、あわせて確認することが重要になります。

  4. (4)弁護士に相談するメリット

    夫婦仲が悪くなると、一緒に生活するのが苦しくなり、引っ越しを急ぎたくなるものです。
    しかし、生活費や子どものことをふまえれば、あわてて引っ越しを決めてしまうことにはさまざまなリスクが存在します。
    特に、片方の収入が高い夫婦の場合では、引っ越しによって生活水準が大幅に下がるおそれもあるのです。
    こうした事態を避けるために、事前に弁護士に相談して、タイミングや費用の請求方法などについてしっかりとした準備を整えましょう
    特に、引っ越し費用は、そもそも法的な請求権が確立されているわけではないため、交渉次第で支払いの金額にも違いが生じやすい項目です。
    そのため、財産請求の交渉に慣れた弁護士に相談することが重要になるのです。

5、まとめ

離婚する相手に引っ越し費用を払ってもらうためには、事前の準備と適切な交渉が必要です。
また、引っ越しに先立って整理しておくべきこともたくさんあります。後悔することのないよう。引っ越しを決行する前に、弁護士に相談することが重要になるのです。
ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスでは、離婚や別居の際に引っ越しについても、さまざまなケースを想定した対応をいたします。離婚についてお悩みの方は、ぜひ、熊本オフィスの弁護士にまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています