相続の限定承認ができる期間|限定承認を検討すべきケースと注意点

2023年06月13日
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相続の限定承認ができる期間|限定承認を検討すべきケースと注意点

裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に熊本家庭裁判所に申し立てのあった限定承認の申述件数は、7件でした。

被相続人に借金がある場合には、相続放棄を選択することが一般的です。しかし、「いまはわからないが、今後、被相続人の借金が見つかるかもしれない」といった場合や「借金は相続したくないが、どうしてもほしい遺産がある」といった場合もあるでしょう。

そのような場合には、限定承認という方法を検討してください。限定承認をする場合であっても、相続放棄と同様に期間制限がある点に注意が必要となります。本コラムでは、限定承認ができる期間と注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。

1、限定承認とは? 単純承認や相続放棄との違い

まず、限定承認という手続きの概要や、単純承認・相続放棄との違いについて説明します。

  1. (1)限定承認とは

    限定承認とは、プラスの財産の限度で、マイナスの財産を相続する方法です
    たとえば、被相続人に1000万円の預貯金と、1500万円の借金があった場合には、限定承認を選択することによって、相続人が相続する借金額は1000万円となります。
    そして、預貯金1000万円から借金を返済することによって、相続人の負担はゼロとなるのです。

  2. (2)単純承認・相続放棄との違い

    遺産を相続する方法には、上記の限定承認のほかにも、「単純承認」と「相続放棄」という方法があります。

    単純承認とは、被相続人のすべての遺産を相続する方法です
    単純承認ではプラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぐことになるため、被相続人に多額の借金があった場合には、それも承継しなければなりません。
    また、限定承認や相続放棄と異なり、単純承認は特別な手続きは不要です。
    一定の行為をした場合や、熟慮期間内に限定承認や相続放棄をしなかった場合には、自動的に「単純承認を選択した」という扱いになります。

    相続放棄とは、被相続人の遺産に関する一切の権利を放棄する方法です
    相続権を失うことになるため、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も相続することができなくなります。
    限定承認は「プラスの財産の限度で相続をする」ことであるのに対して、相続放棄は「一切の相続をしない」ということです。

2、限定承認を検討すべきケースとは

以下では、どのような場合に限定承認を検討すべきかについて、解説します。

  1. (1)相続財産の内容が不明であるケース

    相続財産調査によって、プラスの財産とマイナスの財産がどのくらいあるのかはっきりと分かった場合には、単純承認または相続放棄を選択することができます。
    しかし、「借金があることはわかったがどのくらいあるのかが不明」、「借金があるかどうかわからず後から借金の存在が判明しないか不安」という場合には、限定承認を検討することをおすすめします

    相続財産の内容が不明な状態で単純承認をしてしまうと、多額の借金があることが判明したとしても相続放棄をすることができなくなってしまいます。
    また、相続放棄をした後で借金を上回る財産が発見されたとしても、相続放棄の撤回はできませんので、遺産を相続する機会を失ってしまいます。
    そのため、相続財産の内容が不明である場合には、限定承認をしたほうが安全です。

  2. (2)どうしても相続したい財産があるケース

    相続財産のなかにどうしても相続したい財産がある場合には、限定承認を検討してください

    限定承認では、「先買権」という制度を利用することができます。
    先買権を利用すれば、家庭裁判所の選任した鑑定人の評価にしたがって取得を希望する遺産の評価額を支払うことができた場合には、その遺産を残すことができます。
    したがって、先買権を行使するだけの十分な資産がある場合には、どうしても相続したい財産を得るために、限定承認を行うことを検討してみましょう。

  3. (3)相続人の1人が事業を引き継ぐケース

    相続人の1人が被相続人の事業を引き継ぐという場合には、当該相続人に遺産を集中させるために他の相続人が相続放棄を行い、事業を引き継ぐ相続人が単純承認をする、という方法があります

    また相続の機会に被相続人の債務を整理する目的で限定承認が選択されることもあります。限定承認をすれば、事業に必要な資産を引き継ぎながら、資産の範囲を上回る負債を整理することができます。
    そのため、債務整理と同様の効果が期待できるのです。
    ただし、債権者は、限定承認によって満足いく弁済を受けることができないため、債権者の判断によっては、今後の取引を打ち切られてしまう可能性もあります。
    したがって、限定承認を選択するのが最適であるかについては、慎重に検討する必要があります。

3、限定承認の申立てができる期間と注意点

限定承認をする際には、期間制限などに注意する必要があります。

  1. (1)限定承認の申立てができる期間

    1. ① 限定承認の期間は3か月
      限定承認は、相続の開始を知ったときから3か月以内に手続きを行わなければなりません。この期間を「熟慮期間」といいます。

      熟慮期間が経過してしまうと「単純承認をしたもの」とみなされてしまいます。
      そのため、熟慮期間内に手続きを進めていかなければならないのです。

    2. ② 期間内に申立てができない場合には熟慮期間の伸長を検討
      熟慮期間内に単純承認または限定承認・相続放棄をするかどうかを判断するためには、被相続人の財産を調査して、プラスの財産とマイナスの財産がどのくらいあるのかを把握する必要があります。
      しかし、3か月という短い期間では、すべての調査が終わらず、相続するか否かを判断することができないこともあるのです。

      そのような場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長の申立てをすることによって、3か月の期間を延長してもらうことが可能です。
      熟慮期間内に限定承認を申立てるのが難しい状況になった場合には、早めに、熟慮期間の伸長を検討しましょう
  2. (2)限定承認の注意点

    限定承認をする場合には、熟慮期間の他にも、以下のような点に注意が必要です。

    1. ① 相続人全員で申述する必要がある
      限定承認をする場合には、相続人全員で手続きをする必要があります

      相続放棄であれば相続人が単独で行うことができますが、限定承認をするにはすべての相続人が限定承認に同意していることが必要になるのです。

    2. ② 清算手続きの負担がある
      相続放棄であれば、家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、それが受理されれば手続きは終了ですので、手続きに関する負担は小さいといえます。

      しかし、限定承認の場合には、家庭裁判所に限定承認の申述をした後に、相続財産管理人が選任され、相続財産の清算手続きが行われます
      相続債権者や受遺者に対する弁済なども必要になるため、非常に複雑な手続きであるといえます。
      限定承認が終わるまでに、半年から1年程度の期間がかかる場合もあります。

    3. ③ みなし譲渡所得税が課税される可能性がある
      限定承認をすると、相続開始時点の時価で「被相続人から相続人に譲渡がなされた」とみなされ、「みなし譲渡所得税」が課税される可能性があります。みなし譲渡所得は被相続人のものですが、被相続人は所得税の申告ができないので、相続人が被相続人の死亡から4カ月以内に準確定申告を行う必要があります。

      みなし譲渡所得税は、被相続人の債務になりますので、借金とみなし譲渡所得税を含めたマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合には、納税は免除されることになります。

      しかし、プラスの財産が上回る場合には、みなし譲渡所得税を納めなければなりません
      単純承認をしていれば、みなし譲渡所得に対する課税は発生しないので、限定承認をすることによって損をしてしまう可能性もあります。

4、遺産相続に関するお悩みは弁護士に相談を

遺産相続に関してお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)最適な相続方法をアドバイスしてもらえる

    相続が開始した場合には、単純承認、限定承認、相続放棄という3つの相続方法から1つを選択する必要があります。
    相続財産がプラスの財産だけであれば、単純承認を選択すればよいですが、借金などが含まれている場合には、限定承認や相続放棄も含めて検討しなければなりません。

    各相続方法には、それぞれにメリットとデメリットがあります
    そのため、手続きごとの特徴をふまえたうえで、どの手続きにするかを選択する必要があります。
    手続きを選択する際には、専門的な知識や経験を有する弁護士のアドバイスを受けるようにしましょう。

  2. (2)熟慮期間内に相続財産調査を行える

    限定承認や相続放棄をするかどうかは、どのような相続財産があるのかを調査しなければ、適切に判断することができません。
    しかし、限定承認や相続放棄は3か月という熟慮期間内に申述をする必要があるため、手続きに不慣れな方では熟慮期間内に相続財産調査を終えることが難しい場合もあります。

    弁護士であれば、財産ごとにどのような調査をすればよいかを熟知しています
    そのため、弁護士に依頼することで、熟慮期間内に相続財産調査を終えて、正確な相続財産の内訳を提示することができるでしょう。

  3. (3)裁判所への申立ても弁護士に任せることができる

    相続放棄や限定承認をする場合には、裁判所への申述が必要になります。
    裁判所への申述にあたっては、準備すべき書類も多く、初めての方では適切に対応することが難しいこともあります。

    とく、限定承認をする場合には、相続人全員の協力が必要となります。
    さらに、複雑な清算手続きもあるのです。
    手続きの負担を抑えたり、失敗を予防したりするためにも、裁判所への申述・申し立てやその他の手続きは、専門家である弁護士に任せましょう

5、まとめ

限定承認をする場合には、3か月という熟慮期間の内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
熟慮期間内に相続財産調査を終えて、限定承認の申述をするため、専門家である弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

限定承認を検討されている方や、相続に関してその他のお悩みを抱えている方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています