相続手続きを10年放置したらどうなる? リスクや期限、対応を解説

2025年03月05日
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相続手続きを10年放置したらどうなる? リスクや期限、対応を解説

令和4年の熊本市の死亡者数は8212名でした。被相続者の方が亡くなると相続が開始されますが、中には、5年、10年と相続手続きを放置してしますケースがあります。

しかし相続の放置はさまざまなリスクを負うことになるため、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。

本記事では、相続手続きを10年放置した場合のリスクや、放置してしまった場合の対応などをベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。


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1、相続手続きを10年放置すると、相続放棄や限定承認ができなくなる

相続手続きを10年放置すると、相続放棄や限定承認ができなくなってしまいます。特に亡くなった被相続人が多額の債務を負っていた場合には、相続放棄や限定承認が認められないことによって大きなリスクを負う可能性があるので要注意です。

  1. (1)相続放棄・限定承認とは

    「相続放棄」とは、亡くなった被相続人の遺産や債務を一切相続しない旨の意思表示です。
    「限定承認」とは、遺産を相続しつつ、債務は遺産額の限度でのみ相続する旨の意思表示です。

    相続放棄と限定承認は、原則として相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法第915条第1項)。

    期間経過後の相続放棄や限定承認も、遅れたことについて合理的な理由があれば認められることがありますが、相続手続きを10年放置したケースで認められる可能性は低いでしょう。

  2. (2)相続放棄や限定承認ができなくなることのリスク

    相続放棄や限定承認が認められない場合、遺産と債務を無制限に相続します。特に亡くなった被相続人が多額の債務を負っていた場合には、その債務を全部相続することになってしまうので注意が必要です。

    なお、相続開始から10年以上が経過していると、相続債務が時効により消滅しているケースも多いでしょう。

    しかし、訴訟などによって時効が中断(更新)されていると、10年たっていても相続債務の時効は完成しないことがあります。その場合、多額の債務の支払いを強いられるおそれがあるので十分ご注意ください。

2、相続手続きを放置することによるその他のリスク

相続放棄や限定承認ができなくなること以外にも、相続手続きを長期間にわたって放置することには、以下のようなリスクが伴います。

  1. (1)不動産の相続手続きを放置した場合のリスク

    不動産の相続手続きをせずに放置すると、他の相続人が自己の持分を勝手に売却してしまい、不動産の権利を得られなくなってしまうおそれがあります。

    また、相続手続きが完了していないと、不動産を新たに賃貸に出すことも難しく、賃料収入が得られないというデメリットもあります

    さらに、不動産の管理を適切に行っていないと、土地が荒れたり建物が倒壊したりして、周辺に被害を及ぼすことも懸念されます。

    加えて、相続の開始および不動産の取得を知った時から3年以内に相続登記を申請しないと、「10万円以下の過料」に処されることがあり得るので注意が必要です(不動産登記法第164条)。

  2. (2)預貯金の相続手続きを放置した場合のリスク

    預貯金の相続手続きをせずに放置すると、他の相続人が預貯金を勝手に使い込んでしまうおそれがあります。

    また、10年間以上取引がない口座の預貯金は「休眠預金」となり、民間公益活動のために活用されます。

    休眠預金は金融機関で手続きをすれば引き出せますが、手続きに時間がかかるケースがある点にご注意ください。

  3. (3)株式の相続手続きを放置した場合のリスク

    株式の相続手続きをせずに放置した結果、発行会社からの通知等が5年以上届かず、かつ剰余金の配当が5年以上受領しなかった場合には、株式を競売または売却されてしまうことがあります(会社法第197条)。

    また、非上場の中小企業の株式については、一定の手続保障を前提として、上記の期間が1年に短縮される特例が設けられています(経営承継円滑化法第15条)。

    その他にも、株式の相続手続きを行わないと、議決権を行使できないなどの弊害が生じる点に注意が必要です。

  4. (4)相続人が増えるリスク

    相続手続きを長期間行わずにいると、その間に相続人が亡くなることがあります。

    相続人が亡くなった場合は、相続権を亡くなった相続人の子どもなどが承継することになります。その結果として相続人が増えてしまい、相続トラブルが発生しやすくなるおそれがあるのでご注意ください。

  5. (5)遺留分侵害額請求ができなくなるリスク

    兄弟姉妹以外の相続人とその代襲相続人には、相続などによって取得できる財産の最低保証額である「遺留分」が認められています(民法第1042条第1項)。

    遺留分を下回る財産しか取得できなかった人は、財産を多く取得した者に対して遺留分侵害額請求を行うことにより、不足額に相当する金銭の支払いを受けられます(民法第1046条第1項)。

    ただし遺留分侵害額請求権は、相続の開始および贈与または遺贈を知った時から1年が経過すると、時効により消滅します。また、相続開始の時から10年を経過した場合にも、同様に遺留分侵害額請求権が時効消滅します(民法第1048条)。

    長期間にわたって相続手続きをせずに放置していると、生前贈与や遺言書の内容が偏っている場合にも、遺留分侵害額請求を行うことができなくなるおそれがあるので注意が必要です。

  6. (6)相続税の追徴課税を受けるリスク

    相続財産などの総額が基礎控除額(=3000万円+600万円×法定相続人の数)を上回っている場合は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、税務署に対して相続税の申告を行う必要があります。

    相続手続きを放置していたために、相続税の申告期限を経過してしまうと、本税に加えて延滞税や無申告加算税・重加算税が課されるおそれがあります
    多額の追徴課税を受けるリスクを避けるためにも、相続税申告を期限内に行いましょう。

3、主な相続手続きの期限

相続手続きの中には、期限が決まっているものもあります。

主な相続手続きの期限は、下表のとおりです。必要な手続きを期限内に行いましょう。

相続手続きの種類 期限
相続放棄・限定承認 相続の開始を知った時から3か月以内
所得税の準確定申告 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内
相続税の申告・納付 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内
遺留分侵害額請求 以下のいずれかの期間が経過するまで
① 相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈を知った時から1年
② 相続開始の時から10年
相続回復請求権
※真正な相続人が相続権のない者に対して、相続権の回復を請求する権利
以下のいずれかの期間が経過するまで
① 相続権を侵害された事実を知った時から5年
② 相続開始の時から20年
不動産の相続登記 相続の開始および相続・遺贈による不動産の所有権の取得を知った日から3年以内

4、相続手続きを10年放置してしまった場合の対応

相続手続きを10年放置してしまっている場合は、相続トラブルの発生するリスクが高い状態ですので、速やかに以下の対応を行いましょう。

  1. (1)弁護士に相談する

    相続が発生した直後に比べて、相続発生から10年以上が経過した段階では、相続手続きについてさまざまな難しい対応が生じるケースが多くなります。

    できる限りトラブルなく相続手続きを進めるためには、弁護士に相談してサポートを受けましょう。弁護士に相談すれば、法的な観点から必要な手続きをリストアップした上で、長期間が経過したことによる注意点も踏まえながら適切な対応が可能です

  2. (2)相続財産と相続人を把握する

    遺産分割を行う際には、あらかじめ相続財産と相続人を漏れなく把握しなければなりません。

    相続発生から10年以上が経過していると、相続財産が流出してしまっていたり、相続人が亡くなっていたりすることがあります。相続財産と相続人の把握に当たっても慎重な対応が求められますので、弁護士のサポートを受けながら調査を進めましょう。

  3. (3)遺産分割を行う

    相続財産と相続人の把握が完了したら、相続人全員で遺産分割協議を行いましょう。

    他の相続人の主張にも耳を傾け、状況に応じて譲歩することが、遺産分割協議をスムーズにまとめるためのポイントです。相続人同士の話し合いがまとまらない時は、弁護士に仲介を依頼することや、家庭裁判所の調停・審判を利用することも検討しましょう。

    なお、相続開始から10年以上が経過している場合は、原則として特別受益や寄与分の主張は認められない点にご注意ください(民法第904条の3)。

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5、まとめ

相続手続きを10年以上放置すると、相続財産が流出することをはじめとして、さまざまなリスクが生じてしまいます。弁護士のサポートを受けて、できる限り早期に相続手続きを完了しましょう

ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。相続開始から長期間が経過している場合も、遺産分割協議から名義変更手続きまでワンストップでサポートいたします。

相続手続きを10年以上放置してしまい、何から手を付ければよいか分からない方は、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスへご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています