所有者不明土地管理制度とは? 相続財産の共有者が不明なときの対応
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令和3年の熊本市の人口は73万8865人で、そのうちの25.9%にあたる19万1066人が65歳以上でした。
2023年4月1日から施行された改正民法により、新たに「所有者不明土地管理制度」が導入されました。この制度の導入により、所有者が誰だかわからない土地や、所有者の所在がわからない土地について、裁判所が管理人を選任できるようになっています。
所有者不明土地管理制度は、相続した土地の共有者が不明の場合や、周囲に荒廃して危険な状態の土地が存在する場合などに利用できます。本コラムでは所有者不明土地管理制度の概要や利用する際の手続きについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。
1、所有者不明土地管理制度とは
所有者不明土地管理制度は、所有者が誰だかわからない土地や、所有者の所在がわからない土地について、裁判所が管理人を選任できる制度です(民法第264条の2以下)。
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(1)所有者不明土地管理制度が導入された経緯
2023年4月1日に施行された改正民法により、新たに導入されました。
所有者不明土地は、相続が発生しても相続の登記をしていないといった不適切な相続手続きなどが原因で、日本各地に多数発生しています。周辺の環境や治安の悪化を招き、防災対策や開発の妨げになるなど、所有者不明土地はさまざまな悪影響をもたらしています。
こうした状況を改善するため、民法をはじめとする法令の抜本的な改正が行われました。2023年4月1日から施行された「相続土地国庫帰属制度」や、2024年4月1日から施行予定の「相続登記の義務化」と並んで、所有者不明土地管理制度もその柱のひとつです。 -
(2)所有者不明土地管理制度の概要
裁判所により選任された所有者不明土地管理人には、所有者不明土地の管理処分権が専属します(民法第264条の3第1項)。
所有者不明土地管理人は原則として、保存行為や土地の性質を変えない範囲内での利用・改良行為のみを行います。ただし裁判所の許可を得れば、それを超える行為(処分行為など)をすることも可能です(同条第2項)。
なお、建物についても同様の制度が設けられています(民法第264条の8第1項)。 -
(3)所有者不明土地管理制度のメリット
以前から、行方がわからなくなった人の財産を管理する「不在者財産管理制度」が設けられていましたが、同制度では不在者の全財産が対象となります。
これに対して、所有者不明土地管理制度は、特定の土地のみを管理の対象としています。結果として、管理人の負担を減らしつつ、問題のある土地に焦点を絞った適切な管理がしやすくなりました。
また不在者財産管理制度には、所有者を全く特定できない財産については、管理を及ぼすことができない問題点がありました。
この点、所有者不明土地管理制度には、所有者が誰だかわからない土地についても管理人を選任できるというメリットがあります。
2、所有者不明土地管理制度が利用できるケース
以下では、所有者不明土地管理制度が利用できるのは、所有者不明の土地がある場合か、所有者の所在がわからない土地がある場合です。
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(1)所有者不明の土地がある場合
所有者が誰だかわからない土地は、所有者不明土地管理制度の対象となります。
たとえば、土地の共有持分を相続したものの、他の共有者について長年相続登記が行われておらず、現在の所有者が誰だかわからない場合などが想定されます。例:生きていれば150歳を超える人が所有者として登記されている場合
また、自分の土地の近隣にある土地が荒れ果てて危険な状態にあり、その土地の所有者が誰だかわからない場合などにも、所有者不明土地管理制度を利用することが可能です。
なお、管理が不適当であるために危険な状態にある土地については、所有者が誰だかわかっている場合でも、裁判所に「管理不全土地管理命令」を申し立てることができます(民法第264条の9)。
管理不全土地管理人には、所有者不明土地管理人に準じた権限が与えられるものの、土地の処分については所有者の同意が必要とされています(民法第264条の10第3項)。 -
(2)所有者の所在がわからない土地がある場合
所有者が誰であるかはわかっていても、その所在がわからない土地については、所有者不明土地管理制度の対象となります。
たとえば、複数の相続人がいる相続において、一部の相続人が行方不明であるために、亡くなった被相続人が所有していた土地の管理等が滞ってしまうケースがあります。
この場合、土地は相続人全員の共有となるところ、共有者が行方不明であるため、所有者不明土地管理制度を利用できます。
また、自分の土地の近隣の荒れ果てた危険な土地について登記簿上の所有者が行方不明である場合などにも、所有者不明土地管理制度を利用することができるのです。
3、所有者不明土地管理制度を利用する際の手続き
以下では、所有者不明土地管理制度を利用する際の手続きの流れを解説します。
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(1)裁判所に対する申し立て
所有者不明土地管理制度を利用する際には、裁判所に対して所有者不明土地管理命令の申し立てを行う必要があります。
申立先は、対象土地の所在地を管轄する地方裁判所です(非訟事件手続法第90条第1項)。
申し立てにあたって必要となる主な書類および費用は、以下のとおりです。<主な必要書類>- 申立書
- 所有者および共有者の探索等に関する報告書
- 所有者不明土地の登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 地図または地図に準ずる図面の写し
- 土地の所在地に至るまでの通常の経路および方法を記載した図面
- 土地の現況調査報告書または評価書(保有する場合)
- (未登記の場合)土地所在図および地積測量図
- 所有者不明土地について、適切な管理が必要な状況にあることを裏付ける資料(写真など)
- 所有者不明土地の所有者の戸籍謄本、戸籍附票または住民票
- 不明の事実を証する資料(不明者あての手紙が返送されたものなど)
- 所有者不明土地を適切に管理するために必要となる費用に関する資料(業者の見積もりなど)
- その他参考となる資料
<費用>- 収入印紙(1筆あたり1000円)
- 郵便切手(数千円分)
- 予納金(土地の状態によって異なる)
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(2)裁判所による審理
裁判所は、提出された書類を基に、所有者不明土地管理命令の要件を満たしているかどうかを審理します。
審理にあたって必要と思われる場合は、申立人などを呼び出しての審問手続きが行われることもあります。 -
(3)所有者不明土地管理命令の発令
要件が満たされていることを確認したら、裁判所は所有者不明土地管理命令を発令し、所有者不明土地管理人を選任します。
所有者不明土地管理命令の発令によって、対象土地の管理処分権は所有者不明土地管理人に専属します(民法第264条の3第1項)。
また、所有者不明土地管理命令の発令がされると、その旨の登記がなされます(非訟事件手続法第90条6項)。 -
(4)所有者不明土地管理人による管理
所有者不明土地管理人は、対象土地について、保存行為および当該土地の性質を変えない範囲内での利用・改良行為を行います。
また、裁判所の許可を得た場合には、これらの保存行為および利用・改良行為を超える行為をすることも可能です(民法第264条の3第2項)。
所有者不明土地管理人は、所有者のために善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければなりません(民法第264条の5第1項)。
所有者不明土地管理人の報酬および管理費用は、所有者不明土地管理命令を申し立てた際の予納金から支払われます。
ただし報酬および管理費用は、最終的に対象土地の所有者が負担します(民法第264条の7第2項)。
したがって、土地所有者が判明した場合には、申立人は所有者に対して報酬・管理費用の償還を請求することができます。
4、所有者不明土地管理制度の利用は弁護士に相談を
所有者不明土地管理制度を利用するために、裁判所への申し立てが必要となります。
提出すべき書類が多岐にわたり、多くの労力を要するため、申し立ての準備をする際には弁護士のサポートを受けることを検討してください。
弁護士には、所有者不明土地管理命令の申し立てにあたって、必要な検討や準備を依頼することができます。
また、相続に関連して申し立てを検討している場合には、相続問題一般に関するアドバイスを受けることもできるため、早い段階から相談することをおすすめします。
5、まとめ
所有者が誰だかわからない土地や、所有者が行方不明である土地については、裁判所への申し立てによって所有者不明土地管理人を選任してもらうことができます。
とくに、相続をきっかけに所有者不明土地の問題が生じた場合には、所有者不明土地管理制度が解決策となる可能性があります。
申し立てにあたっては手間のかかる準備が必要となりますので、弁護士に依頼することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、所有者不明土地管理制度の利用や、その他の相続問題に関するご相談を承っております。
所有者不明土地の問題や、その他の相続トラブルなどにお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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