介護した分の遺産を多く受け取るには?|介護しない兄弟を説得するコツも解説
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2021年の熊本市の出生者数は6141名、死亡者数は7435名でした。
親が高齢となった兄弟の間では、親の介護の負担が偏ってしまう場合がよくあります。親の近くに住んでいる人だけが介護の負担を負い、それ以外の兄弟は知らんぷりをしている、ということもあるでしょう。
親の介護をしない兄弟に対しては、介護の大変さを伝えて、手伝いや金銭的な協力を依頼しましょう。また、介護をしたことが親の遺産相続において有利に働く可能性もあるため、いちど弁護士に相談することをおすすめします。
本コラムでは、親を介護しない兄弟を説得するためのポイントや、親を介護した人が遺産を多くもらう方法などについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。
1、親の介護は義務だが、強制は難しい
民法は、親の身体が不自由になった場合に、子どもが親を介護する「扶養義務」があると定めています。
具体的には、「直系血族には互いに扶養をする義務がある」とされています(民法第877条第1項)。
そして、親と子どもは直系血族に当たるため、互いに扶養義務を負うことになります。
「扶養」とは、独立して生計を営めない者の生活を援助することをいいます。
身体が不自由な親の介護をすることや、専門家による介護の費用を支出することも「扶養」に含まれます。
したがって、身体が不自由となった親のために、子どもは自ら介護をするか、または介護費用を負担する義務を負うことになります。
扶養義務を怠っている子どもに対して、親は扶養を請求することができます。
ただし、扶養請求として認められるのは金銭の請求にとどまり、子どもに自ら介護を行うことを強制することはできません。
また、親の身体が不自由な状態では、自ら子どもを相手に訴訟を提起するなどして、介護を含む扶養を請求することは難しいでしょう。
仮に請求が可能であっても、子どもを相手にそこまでの対応を望まない親が多いです。
そのため、子どもは親を介護する義務があるとはいえ、介護をしない子どもに対して介護を強制することは実質的には困難であるといえます。
2、親を介護しない兄弟を説得するためのポイント
親を介護しない兄弟がいる場合は、ご自身の負担を軽減するために、介護へ協力してもらうように説得を試みましょう。
以下では、兄弟を説得するためのポイントや、具体的な説得案について解説します。
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(1)介護の内容を伝えて、大変さを理解してもらう
介護の大変さは、実際に介護をしている人でなければ分からない部分が多々あります。
介護に協力的でない兄弟は、介護の大変さを理解していないだけかもしれません。
兄弟を説得する際には、日々どのような対応が必要なのか、それにどのくらいの時間がかかっているのかなどを説明して、介護の大変さをできる限り理解してもらうように努めましょう。
具体的に説明することで、これまで介護に協力してこなかった兄弟も、事態の重大さを理解して協力してくれる可能性があります。 -
(2)第三者に説得してもらう
兄弟同士では、近しい間柄であるがゆえに介護に関する話し合いがまとまらないこともあります。
そのような場合には、介護をしない兄弟に対する説得を第三者に依頼することも検討してください。
たとえば、ケアマネジャーや医師など、介護や病者に直接的に携わる職業介護者や専門家に説得されれば、介護をしない兄弟も心を入れ替えて協力するかもしれません。
また、介護をしない兄弟が信頼している親族がいれば、その人に説得してもらうことも検討しましょう。 -
(3)やってもらいたいことを具体的にお願いする
兄弟が親の解雇をしない理由は、「普段から介護をしていないから、何をしてよいか分からない」というだけの可能性もあります。
そのような場合には、やってもらいたいことを具体的にお願いすることが効果的です。
たとえば「月に○回、親の様子を見に来てほしい」「病院へ通う際の送迎をしてほしい」など、ご自身が行っている介護の一部を手伝ってもらうようお願いすることを検討してみてください。
介護の全体ではなく一部の協力を依頼するのであれば、これまで介護をしてこなかった兄弟にとってもハードルが低いことから、協力を得られる可能性があります。 -
(4)金銭的な援助を受ける
遠方に住んでいるなど、自ら介護をするのが難しい兄弟に対しては、介護費用について金銭的な援助を依頼することを検討してください。
ご自身だけで親の介護を行っている方は、その一部でも介護施設に委託することにより、介護の負担は相当程度軽減されます。
兄弟から金銭的な援助を受ければ、利用できる介護サービスの幅が広がるため、親の健康状態に合わせた介護サービスも受けやすくなるでしょう。
3、親を介護した人が、遺産を多くもらうには?
「自分は介護をしたのだから、介護をしなかった兄弟よりも多くの遺産をもらいたい」と考えるのは、自然なことです。
以下では、親を介護した方が遺産を多くもらうための方法を解説します。
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(1)親に遺言書を作成してもらう
遺言書がある場合には、原則としてその内容のとおりに遺産を分けることになります。
そのため、親を介護した方が遺産を多くもらいたい場合は、自分の相続分を多めに確保する内容で、親に遺言書を作成してもらうことが最善といえます。
ただし、介護が必要な程度に健康状態が悪化している場合、親の遺言能力が否定される可能性があります。
遺言能力がない状態で作成された遺言書は無効になってしまうので注意が必要です。
遺言能力の有無については、弁護士に依頼すれば、必要に応じて医師と連携したうえで確認することができます。
また、公正証書遺言の方式を選択すれば、公証人が本人の状態を確認したうえで遺言書を作成するため、遺言能力の欠如による無効のリスクを抑えられます。公正証書遺言の作成についても、公証役場とのやり取りを含めて、弁護士にサポートを依頼することができます。 -
(2)遺産分割時に寄与分を請求する
遺言書がない場合には、遺産分割協議によって遺産の分け方を決めることになります。
遺産分割協議では、相続人全員が合意すれば、遺産の分け方を自由に決めることができます。
まずは親の介護をしたことを理由にして、遺産を多くもらいたい旨を他の相続人に伝えて説得を試みましょう。
ただし、介護をしていない兄弟は、自らの遺産の取り分が減ることに反発する可能性があります。
そのような場合には、「寄与分」を主張することを検討してみましょう。
寄与分は、相続財産の維持・増加について特別の寄与をした法定相続人に認められます(民法第904条の2)。
寄与分のある法定相続人の相続分は増え、その他の法定相続人の相続分は減ります。
そして、親の介護をしたという事実も、寄与分の対象となり得ます。
しかし、同居している親子間、親族間で通常期待される範囲の介護をしていたという事情があるだけでは「特別の寄与」があったとは認められにくいので、その点は注意が必要です。特別の寄与と認められる事情がある場合で、寄与分をふまえて相続分を決定できれば、親の介護をしたおかげでもらえる遺産が増える可能性があります。
遺産分割協議において他の相続人が寄与分の主張に反発した場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることを検討しましょう。
調停委員に対して親の介護をしたことおよび寄与分を主張したいことを伝えれば、調停委員に他の相続人を説得してもらうことが期待できます。
遺産分割調停が不成立となった場合には、家庭裁判所が審判を行い、遺産分割の内容について結論を示します。
遺産分割審判においては、法定相続分を基準に遺産分割の方法が決定されるのが原則です。ただし、寄与分が主張されている場合にはその審理も行われ、認められれば遺産分割の方法に反映されます。
そのため、親の介護をした事実を証拠に基づいて伝えれば、ご自身の相続分が多めに認められる可能性があるといえます。
4、寄与分の主張・相続トラブルの解決は弁護士に相談を
遺産分割協議・調停・審判を通じて寄与分を主張する際には、弁護士へのご相談をおすすめします。
依頼を受けた弁護士は、寄与分の要件をふまえて、依頼者が多くの相続分を確保できるように尽力いたします。
その他の相続トラブルについても、深刻化を防ぐために、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
親を介護しない兄弟に対しては、介護の大変さを伝えたうえで、何らかの形で介護に協力してくれるように説得を試みましょう。
ケアマネジャーや医師などの専門家や、他の親戚に説得してもらうことも検討してください。
また、親の介護を担当した相続人は、介護をしなかった相続人に比べて、寄与分の主張により多くの遺産をもらえる可能性があります。
ただし、寄与分を主張すると遺産分割調停や審判などの法的手続きに発展することも多いため、早い段階から、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております
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