家賃収入はどう相続すべき? 分割協議がまとまるまでの収入の扱い

2023年10月30日
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家賃収入はどう相続すべき? 分割協議がまとまるまでの収入の扱い

亡くなった家族が収益不動産を所有していた場合、相続前後における家賃収入を誰が取得するかが問題となります。

収益物件の相続については、家賃収入の取り扱いのほかにも注意すべき点が多々あるため、専門家である弁護士のアドバイスをふまえた対応が大切です。

本コラムでは、相続した収益物件の家賃収入の取り扱いや、収益物件を相続した際に必要な検討や対応などについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。

1、相続した収益物件の分割方法

亡くなった家族が収益物件である建物を所有していた場合、相続人の間でその建物を分割することになります(遺言書があれば、その内容に従って分割します)。

収益物件である建物の遺産分割方法は、主に「代償分割」「換価分割」「共有分割」の三つです。

  1. (1)代償分割|一部の相続人が取得する

    「代償分割」とは、一部の相続人が収益物件を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う分割方法です
    たとえば相続人がA・B・Cの3人である場合に、Aだけが収益物件を取得し、B・CにはAが代償金を支払います。

    収益物件以外に十分な遺産があれば、代償金の精算は行わず、他の遺産の配分で調整できることもあります。

  2. (2)換価分割|売却して代金を分割する

    「換価分割」とは、収益物件を売却したうえで、その代金を相続人間で分ける分割方法です

    換価分割には、1円単位で公平に収益物件を分割できるメリットがあります。
    また、収益物件の維持管理が難しい場合には、換価分割がもっとも適した分割方法といえます。

  3. (3)共有分割|相続人が収益物件を共有する

    「共有分割」とは、収益物件を複数の相続人が共同で相続することをいいます。共有者となった相続人の間では、共有持分割合に従って家賃収入を分け合います

    共有分割は、共有関係に起因するトラブルのリスクが高いため、おすすめできる分割方法ではありません。
    特段の事情がない限り、代償分割または換価分割を選択することが望ましいでしょう。

2、相続財産である不動産の家賃収入の取り扱い

相続の対象である収益物件については、相続の前後で家賃収入が発生し続けます。

相続財産である不動産の家賃収入は、以下の3段階で法的な取り扱いが異なってきます。



  1. (1)相続開始前の家賃収入|遺産分割の対象となる

    相続開始前に発生した家賃収入は、亡くなった被相続人の財産であるため、遺産分割の対象となります(民法第896条)。

    したがって、現金や預貯金などとして存在する家賃収入を、相続人全員で遺産分割協議を行い、または遺言書の内容に従って分けることになります

  2. (2)相続開始後、遺産分割前の家賃収入|法定相続分に応じて分割される

    相続開始後、遺産分割前に発生した家賃収入は、各共同相続人が法定相続分に応じて取得します(最高裁平成17年9月8日判決)。

    たとえば配偶者A、子B、子Cの3名が相続人であるケースを考えます。
    遺産に含まれる収益物件につき、相続開始後遺産分割前の期間において、200万円の家賃収入が発生したとします。
    この場合は法定相続分に従い、Aが100万円、B・Cが各50万円の家賃収入を取得することになります。

    仮に配偶者Aが収益物件をひとりで相続することになったとしても、上記の取り扱いに影響はありません。
    判例では、「遺産分割の結果にかかわらず、Aが100万円、B・Cが各50万円の家賃収入を取得する」とされています。

  3. (3)遺産分割後の家賃収入|不動産を取得した相続人のもの

    遺産分割後に発生する家賃収入は、その時点における不動産の所有者、すなわち不動産を取得した相続人のものです。

    したがって、遺産分割後に発生する家賃収入については、遺産分割を行う必要はありません

  4. (4)実際には、遺産分割協議で家賃収入の帰属を決めるケースが多い

    上記で説明した、家賃収入の取り扱いをまとめると、以下のようになります。

    ① 相続開始前の家賃収入
    →遺産分割の対象となる

    ② 相続開始後、遺産分割前の家賃収入
    →法定相続分に応じて分割される(遺産分割の対象外)

    ③ 遺産分割後の家賃収入
    →不動産を取得した相続人のもの(遺産分割の対象外)


    なお、②については、各相続人が賃借人に対して個別に家賃を請求するとかなり煩雑な作業としてします。
    そのため、遺産分割協議によって不動産を取得する相続人に家賃収入全額を取得させる代わりに、他の遺産の配分で調整を行うという方法が通例です

3、収益物件を相続したときに必要な検討・対応

収益物件の相続をスムーズに完了させるためには、とくに以下のような検討や対応が必要となります。



  1. (1)家賃の振込先口座を変更する

    亡くなった被相続人の預貯金口座は、金融機関に死亡の事実を連絡した時点で凍結されます。
    したがって、被相続人口座に家賃が振り込まれ続けると、相続手続きが完了するまでの間は家賃収入を引き出すことができません。

    葬儀費用や専門家への依頼費用など、相続手続きには一定の費用がかかります。
    相続手続きの完了前に家賃収入を引き出して利用したい場合には、賃借人に連絡して家賃の振込先口座を変更しましょう

  2. (2)家賃収入と維持コストを比較・検討する

    収益物件の遺産分割方法を決める際には、家賃収入と維持コストを比較検討したうえで、その収益物件を所有し続けるべきか否かを判断する必要があります。

    返済に必要な費用、修繕費用や税金などの金銭的コストや管理の手間などのコストをふまえたうえで「収益物件を所有し続けるメリットがない」と判断した場合には、換価分割(売却)によって手放すことも検討すべきでしょう。特に、購入の際に融資を利用して収益物件を取得し、現在も返済を行っているような場合には、返済は大きなコストとなるので、必ず確認するようにしましょう。

  3. (3)相続登記を行う

    収益物件を相続した場合は、速やかに相続登記の手続きを行いましょう。
    相続登記の手続きは、不動産の所在地を管轄する法務局または地方法務局で行います。

    相続登記が遅れると、他の相続人が共有持分を勝手に譲渡した場合に、収益物件の所有権の一部を失ってしまう事態になりかねません
    また、2024年(令和5年)4月以降には、相続開始から3年以内に相続登記を行うことが義務付けられる予定です。

    収益物件の所有権を保全するため、および相続登記の義務化に対応するためにも、収益物件の相続が確定したら早めに相続登記を行いましょう。

  4. (4)火災保険・地震保険の名義変更を行う

    収益物件の所有者は、火災保険および地震保険に加入しているケースが多いといえます。

    火災保険および地震保険が付保されている収益物件を相続した者は、保険会社に連絡して名義変更を行う必要があります
    遺品に含まれる保険証券などを参照して、速やかに保険会社へ連絡をとりましょう。

4、収益物件の相続は弁護士に相談を

収益物件を相続するにあたっては、遺産分割の方法や家賃収入の取り扱いなど、注意すべき点がたくさんあります。
収益物件は価値が高額なことも多いため、適切に検討や対応を行わなければ、相続人同士の深刻なトラブルに発展しかねません。
したがって、収益物件の相続を進める際には、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士は、ご家庭の状況やご希望をふまえたうえで、収益物件の遺産分割を行うための適切な方法をアドバイスいたします
また、家賃収入の取り扱いについても、法律および判例上の取り扱いをふまえたうえで、適切な対処ができるようにサポートいたします。
もし相続人同士で遺産分割を巡るトラブルが生じてしまった場合にも、遺産分割協議・調停・審判の各手続きを通じながら、できる限りすべての相続人が納得できるような解決に向けて尽力いたします。

収益物件の相続については、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

収益物件が相続の対象となる場合、相続開始および遺産分割の前後によって、各段階で家賃収入の取り扱いが異なります。
各相続人は、家賃収入の法的な取り扱いをふまえたうえで、適切に遺産分割の内容を調整しなければなりません。

家賃収入の取り扱いのほかにも、遺産分割の方法選択をはじめとして、収益物件の相続には注意すべき点がたくさんあります。
できる限り相続人間のトラブルを回避しながら、すべての相続手続きを適切に進行するためには、弁護士に依頼することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております
遺産に含まれる収益物件の取り扱いも含めて、トラブルなくスムーズに相続を完了できるように、経験豊富な弁護士がサポートいたします。
所得税の準確定申告や相続税申告についても、グループに所属する税理士と連携して対応いたします。

収益物件の相続について疑問点やご不安を抱えられている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

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