遺産分割協議書は必ず作成すべきか? 作らないデメリットはある?

2024年05月14日
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遺産分割協議書は必ず作成すべきか? 作らないデメリットはある?

熊本国税局が公表している相続税の申告事績の概要によると、令和3年(2021年)における被相続人数(死亡者数)は2万2093人であり、そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人数は1033人でした。

相続人による遺産分割協議がまとまった場合には、遺産分割協議書の作成を行うのが一般的です。遺産分割協議書の作成は法律上の義務ではないため遺産分割協議書を作らなくてもよいケースもあります。しかし、遺産相続に関する将来のトラブルを回避するためにも、遺産分割協議書はできるかぎり作成すべきです。

本コラムでは、遺産分割協議書を作らないことによるデメリットや弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼すべき理由などについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。

1、遺産分割協議書とは?

まず、遺産分割協議書という書類の概要や、作成する理由について説明します。

  1. (1)遺産分割協議書とは

    「遺産分割協議書」とは、相続人による遺産分割協議の内容を書面にまとめたものです。
    被相続人が死亡すると相続が開始し、遺言書がない場合には、相続人による遺産分割協議によって誰がどのような遺産をどのような割合で相続するのかを決めていきます。

    すべての相続人が遺産分割方法に合意すれば、遺産分割協議は成立して、その内容が遺産分割協議書にまとめられます。

  2. (2)遺産分割協議書には実印を押印する

    遺産分割協議書の書式は決まっていませんが、遺産分割協議がまとまった場合には、相続人全員が署名をし、実印を押印する必要があります。
    また、押印された印鑑が実印であることを証明するために、相続人全員の印鑑証明書も必要になります。

    遺産分割協議書は、相続人の人数分作成して、相続人それぞれが1通ずつ保管することが一般的です。

2、遺産分割協議書は必要? 作らないとどうなる?

遺産分割協議書の作成は法律上の義務ではありませんので、遺産分割協議書を作らないことも可能です。
しかし、遺産分割協議書を作らないことには、以下のようなデメリットが存在します。

  1. (1)相続手続きができないことがある

    遺産分割協議が成立した後は、合意した内容にしたがって相続手続きを進めていくことになります。
    相続財産に不動産が含まれている場合には法務局で相続登記が必要になり、預貯金が含まれている場合には金融機関で預貯金の払い戻しが必要になります。
    また、車や有価証券が含まれている場合には、名義変更の必要もあります。

    このような相続手続きを進める際には、相続人間で成立した遺産分割協議の内容を証明するもの、すなわち「遺産分割協議書」の提出を求められます。
    遺産分割協議書がなければ、これらの相続手続きを進めることができず、その都度書類への署名押印が必要になるなど、煩雑な手続きとなってしまいます
    相続手続きをスムーズに進めるためにも、遺産分割協議書は作成しておくべきでしょう。

  2. (2)相続人同士のトラブルの原因になる

    遺産分割協議は、相続人の合意により成立しますので、口頭での合意でも足ります。
    しかし、遺産分割協議の内容は非常に複雑なものであるため、口頭での合意では合意内容が不明確になってしまい、後日にトラブルの原因となる可能性があります。

    遺産分割協議書を作成しておけば、遺産分割協議での合意内容を文章によって明確に記録することができるため、相続人同士のトラブルの発生を予防することができます

  3. (3)相続税の申告が遅れてしまう

    相続財産の金額が相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×相続人の人数)を超えている場合には、相続税の申告が必要になります。

    相続税の申告にあたっては「誰がどのような遺産を相続したのか」を明らかにするために、遺産分割協議書の提出が必要になります。
    遺産分割協議書を作成していなければ、相続税の申告をすることができず、相続税を軽減するための「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」などの特例を利用することができません。また、相続税の納付期限を過ぎてしまった場合には延滞税や無申告加算税などのペナルティーが課されるおそれもあることに注意が必要です。

3、遺産分割協議書を作成しなくてもよいケース

以下では、遺産分割協議書を作成しなくてもよい場合を紹介します。

  1. (1)相続人が1人しかいない

    相続人が1人しかいない場合には、その人がすべての遺産を相続することになりますので、遺産分割協議書の作成は不要です。

    具体的には、以下のような場合が当てはまります。

    • 法定相続人がそもそも1人しかいない
    • 相続放棄、相続人の廃除、相続欠格により相続人が1人になった
  2. (2)遺言書によりすべての遺産の行き先が指定されている

    被相続人が遺言書を作成していた場合には、相続人による遺産分割協議よりも遺言書の内容が優先されます。
    したがって、そもそも遺産分割協議が不要になり、遺産分割協議書も必要なくなるのです。

    ただし、遺産分割協議が不要になるのは、すべての遺産の行き先が遺言書で指定されている場合です。
    遺産に漏れがあったような場合には、漏れた遺産を対象に遺産分割協議をしなければならないため、遺産分割協議書の作成が必要になります。

  3. (3)名義変更が必要な財産がなく相続税の申告も不要

    相続財産の内容や金額によっては、遺産分割協議書を作らなくてもよい場合もあります。

    相続財産に、不動産、有価証券、車などが含まれている場合には、名義変更の手続きのために遺産分割協議書が必要になります。
    しかし、現金や預貯金だけであれば、金融機関所定の用紙に記入をすれば預貯金の払い戻しを受けることができるので、遺産分割協議書の作成は不要です。
    また、相続財産の総額が相続税の基礎控除額以下である場合には相続税の申告も不要となりますので、遺産分割協議書を作成する必要もなくなります。

  4. (4)法定相続分どおり遺産分割する

    相続財産に不動産が含まれていても法定相続分どおりに遺産分割するのであれば、遺産分割協議書の提出は必要ありません。
    また、相続税申告が必要になるケースであっても法定相続分どおりに遺産分割をするのであれば、遺産分割協議書の提出は不要となります。

    ただし、遺産分割協議書が不要な場合にも、「法定相続分どおりに遺産分割をした」という合意内容を明確化しておくために、遺産分割協議書を作成しておくことをおすすめします

4、遺産分割協議書の作成は弁護士への依頼がおすすめ

以下では、遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼すべき理由を解説します。

  1. (1)記載内容の不備不足を防げる

    遺産分割協議書には、「誰が」、「どの遺産を」、「どのような割合で」相続するのかを明確に記載しなければなりません。
    遺産分割協議書の書き方には決まりがあるわけではありませんが、遺産の種類ごとに必要な記載事項があるため、きちんとルールにしたがって記載をしなければ、内容の不備や不足が生じる可能性があります
    遺産分割協議書の作成は、ほとんどの方にとって初めての経験となるためどのように記載すればよいかわからないことも多いでしょう。

    専門家である弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼すれば、記載内容の不備や不足を防いで、将来のトラブルを予防しやすくなります。

  2. (2)遺産分割協議をスムーズにできる

    弁護士には、遺産分割協議書の作成だけでなくその前提となる遺産分割協議についてもサポートを依頼することができます。

    遺産分割の場面では、それぞれの相続人の利害関係が衝突することがあり、遺産の分け方などをめぐって相続争いが生じることもあります。
    弁護士が遺産分割協議に参加することで、法的観点から適切な遺産分割方法を提案することができるほか、特別受益や寄与分の問題についても対応して、相続争いを解決しやすくなります

  3. (3)公正証書の作成をサポートしてもらえる

    遺産分割協議書の内容によっては、公正証書として作成した方がよいこともあります。

    たとえば、遺産分割方法として代償分割を選択した場合には、不動産を相続した相続人から他の相続人に代償金の支払いが必要になります。公正証書を作成しておけば、裁判をすることなく直ちに強制執行をすることができるため、代償金の不払いというトラブルを回避することができます。

    また、遺産分割協議書を作成し、遺産分割協議がまとまったにもかかわらず、後日になって「遺産分割が無効であった」と一部の相続人が主張する場合もあります。
    遺産分割協議書を公正証書にしておけば、偽造や変造のおそれがなくなるため、そのような理由での無効の主張を排除することができます。

    弁護士には、遺産分割協議書の公正証書化のサポートを依頼することもできます

5、まとめ

遺産分割協議書の作成は法律上の義務ではないため、「遺産分割協議書を作らない」という選択も可能です。
しかし、実際には、遺産分割協議書がなければ相続手続きを進めることができない場合が多く、合意内容を書面で明確にしておかなければ将来のトラブルになるおそれもあります。
したがって、一部の例外的なケースを除けば、遺産分割協議書は、必ず作成しておいた方がよいといえます。

スムーズに遺産分割協議を進め、正確な内容の遺産分割協議書を作成するためには、早い段階から弁護士に相談することが大切です。
まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています