交通事故で傷跡が残ったら? 後遺障害等級認定と慰謝料請求
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交通事故統計によると、令和6年の熊本県内における交通事故発生件数は2945件、負傷者数は3628人でした。交通事故の発生件数や負傷者数は近年減少傾向にあるものの、それでもなお多くの方が事故に遭遇している状況です。
交通事故で負った怪我の傷跡が残ってしまい、今後の生活への影響に不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。交通事故による傷跡は、大きさや部位・程度によっては「後遺障害等級」の認定対象となる可能性があります。後遺障害等級が認定されれば、治療にかかった実費とは別に、後遺障害慰謝料の請求が可能です。
本コラムでは、傷跡の後遺障害がどのような状態を指すか、後遺障害等級認定された場合の慰謝料請求などについて、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士が解説します。
出典:「交通事故統計(令和6年中)」(熊本県警察)
1、傷跡の後遺障害とは? 性別によって評価は違うのか
交通事故によって傷跡が残った場合、「醜状(しゅうじょう)障害」として後遺障害等級の認定対象となる可能性があります。傷跡の後遺障害とは具体的にどのようなものなのか、以下で詳しく紹介しましょう。
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(1)傷跡(醜状)の後遺障害とは
傷跡の後遺障害(醜状障害)とは、頭・顔・首・手足などに外見上認識できる傷跡について、傷跡が残っていると認定された状態を指します。傷跡の例として挙げられるのは、事故で負った傷ややけどの痕・皮膚の変色・手術で残った傷跡・欠損・組織陥没などです。
傷跡が後遺障害として認められるためには、治療が終了したのち、後遺障害等級認定の申請が欠かせません。
後遺障害等級には1級から14級までの階級があり、等級の数字が小さいほど、症状が重い状態を指します。傷跡の大きさや位置によって等級が変わるため、適正な認定を受けるには、医学的な証拠や写真などの資料をそろえることが重要です。
後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金を請求できるようになります。後遺障害慰謝料とは、後遺障害によって生じた精神的苦痛への補償のことです。また逸失利益は、後遺障害が残らなければ本来得られていた収入の補償です。 -
(2)主に外貌と露出面の2パターンがある
傷跡の後遺障害は、主に外貌(がいぼう)醜状と、露出面の醜状の2つのパターンに分類されます。
「外貌醜状」とは、頭・顔・首など、手足以外で日常的に露出する部分に残った目立つ傷跡のことです。人目につく傷跡が対象となるため、髪の毛や眉毛に隠れる部分の傷跡は後遺障害として認められる可能性が低いでしょう。
対して「露出面の醜状」とは、肩関節から指先までの上肢、もしくは太ももから足の甲までの下肢に残った目立つ傷跡です。足や腕に手のひら大以上の大きさの傷跡が残った場合、後遺障害等級が認められる可能性があります。
傷跡がある場所によって後遺障害等級の認定基準が異なるため、外貌と露出面の違いを正しく理解しておくことが重要です。 -
(3)性別による評価の違いはあるのか
後遺障害等級の評価は、男女によって異なると思われる方もいるかもしれません。
かつては、同じ醜状障害でも男性と女性で認定される等級が異なりました。しかし平成22年5月27日京都地方裁判所の判決において、障害等級表の男女で差別的取り扱いを定めた部分は、合理的な理由がないため憲法に違反していると判断されています。
この判決を受けて、後遺障害等級の認定基準における男女差は廃止され、性別による評価の違いはなくなりました。したがって、現在は同等の大きさや部位の傷跡であれば、男女関係なく同じ後遺障害等級が認定されます。
2、傷跡(醜状)の後遺障害等級認定
交通事故による傷跡が後遺障害として認定される場合は、その大きさや位置・外見上の影響などによって等級が決まります。傷跡(醜状)に適用される主な後遺障害等級は、主に7級・9級・12級・14級の4種類です。
どのような傷跡が後遺障害等級に認定されるのか、症状が重い(等級の数字が小さい)順に確認していきましょう。
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(1)第7級12号|外貌の著しい醜状
「外貌に著しい醜状を残すもの」と判断される場合、後遺障害等級第7級12号に該当します。第7級12号は傷跡による影響が非常に大きく、明らかに外見を損なう場合に認定される等級です。
具体的には、交通事故によって以下のような傷跡が残ると、第7級12号に該当する可能性があります。- 頭部の手のひら大以上の傷跡または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
- 顔面部の鶏卵大面以上の傷跡または10円硬貨大以上の組織陥没
- 頚部(首)の手のひら大以上の傷跡
「手のひら大以上」には、指を含めない手のひら部分以上の大きさが該当します。また、「鶏卵大面以上」とはにわとりの卵の大きさ以上を指し、面積の目安は15.7平方センチメートルです。
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(2)第9級16号|外貌の相当程度の醜状
「外貌に相当程度の醜状を残すもの」と判断される場合、後遺障害等級第9級16号に該当します。第9級16号は、社会的・職業的な影響は7級ほど大きくはないものの、人目に付く目立った傷跡が残ったときに認定される等級です。
第9級16号に該当する具体的な傷跡の例は、「顔面部の長さ5cm以上の線状痕」となります。線状痕とは、線のような傷跡です。
たとえば、交通事故で切り傷を負った場合や、手術後の傷跡が線状に残った場合、認定される可能性があります。 -
(3)第12級14号|外貌の醜状
「外貌に醜状を残すもの」に該当する場合、後遺障害等級第12級14号が認定されます。対象となる傷跡の具体例は、以下のとおりです。
- 頭部の鶏卵大面以上の傷跡または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
- 顔面部の10円硬貨大以上の傷跡または長さ3cm以上の線状痕
- 頚部の鶏卵大面以上の傷跡
顔面の傷跡は日常生活への影響が大きいため、ほかの部位よりも高い等級が認められやすい傾向にあります。
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(4)第14級4号・5号|露出面の手のひら大の醜状
外貌ではなく腕や手などの露出面に傷跡が残った場合、後遺障害等級14級4号もしくは5号に該当する可能性があります。認定基準となる傷跡の具体例は、以下のとおりです。
- 上肢の露出面の手のひら大以上の傷跡
- 下肢の露出面の手のひら大以上の傷跡
なお、手のひら大の3倍程度の傷跡が残っている場合は、後遺障害等級第12級相当と評価されるケースもあります。
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3、職業や年齢等を理由に慰謝料は増額する?
傷跡による後遺障害慰謝料は、原則として職業や年齢などの違いで増額されることはありません。慰謝料は、傷跡の程度や認定された後遺障害等級を基準に算定されるものであり、被害者の職業や年齢は考慮されないためです。
ただし、モデル・俳優・接客業・営業などの職業については、醜状障害が直接労働能力に影響するおそれがあります。この場合、後遺障害慰謝料とは別で「後遺障害逸失利益」が認められる可能性が高くなります。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害がなければ本来得られていたはずの利益を補償するものです。適正な補償を受けるためには、事故後の症状に応じた後遺障害等級の認定を受けることが重要となります。
4、交通事故を弁護士へ相談するべき理由
交通事故に巻き込まれ傷跡が残ってしまったときは、弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士に相談すべき理由として挙げられるのは、次の3つです。
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(1)納得のいく賠償を受けられる可能性が高くなる
弁護士に相談するべき理由のひとつは、納得のいく賠償金を受け取れる可能性が高くなることです。保険会社はできるだけ支払いを抑えようとして、相場より低い示談金を提示するケースがあります。
弁護士が介入すると、過去の判例をもとにした弁護士基準(裁判基準)で慰謝料を請求できるため、示談金の増額が期待できます。特に後遺障害が認定された場合は、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の補償も含めた適切な賠償金の算定が可能です。
相手の保険会社から提示された金額に納得できない場合や、適正金額がわからない場合には、弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)事故の相手方との交渉を代行できる
弁護士は、事故の相手方との示談交渉を代行できます。
交通事故の被害に遭った場合は、事故の相手方や保険会社と示談交渉をしなければなりません。しかし、法律や保険の知識がないまま交渉すると、不利な条件で示談が成立してしまうリスクがあります。
弁護士が介入することで法的な観点から交渉を進められるため、不利な条件での示談を避けられるでしょう。また、弁護士に依頼すれば被害者自身で交渉を行う必要がなくなり、精神的な負担も大幅に軽減できます。 -
(3)後遺障害等級認定申請のサポートができる
弁護士は、後遺障害認定申請のサポートができます。具体的には、証拠集めや申請書類の作成・提出手続き・適切な等級認定を受けるためのアドバイスなどが可能です。
また、醜状障害の後遺障害認定手続きでは、自賠責損害調査事務所で審査面接が行われる場合があります。「どのくらい目立つか」「人目につくか」などは審査担当者の主観によるため、審査結果に納得できないケースもあるでしょう。
弁護士に依頼することで、審査面接に同行し、しっかり判断してもらうよう交渉できます。審査に不安がある方や適正な後遺障害等級認定を受けたい方は、弁護士への相談を検討してみてください。
5、まとめ
傷跡の後遺障害は精神的なダメージやその後の生活への影響も考えられるため、適切な補償を受けることが重要となります。
後遺障害等級を申請し認定されれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求することが可能です。しかし、後遺障害等級は傷跡の大きさや部位によって認定基準が細かく決まっています。
特に醜状障害は評価が難しく判断が分かれやすいため、争いが生じることもあるでしょう。適正な補償を受けるためにも、早めに交通事故問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
示談交渉・後遺障害等級の申請・面接対策など専門的なサポートを受けることで、納得のいく結果につながりやすくなるでしょう。事故による傷跡に悩んでいる方は、ひとりで抱え込まず、ベリーベスト法律事務所 熊本オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
